表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
188/356

第180話 全放出

「ではノースト殿にガウラ殿、昌弥まさやをよろしくお頼み申す」


 刻宗ときむねが頭を下げる。本来、みずからの進む道を決断し里を出ることになった者は、事前準備として最低限の戦闘訓練を受けねばならない。なぜなら魔珠ましゅにしろ愛珠あいしゅにしろ、それらを得るためにはまず、敵対する魔物たちの拠点きょてんまで辿り着く必要があるからだ。その道中には無差別に襲いかかってくる魔獣が存在するゆえ、彼らに対処できる力がなければ、そもそもスタートラインにすら立てないのである。


 ただし、たとえ訓練を受けた者であろうとも、ひ弱な人間()がりの魔物が実際に敵陣てきじんに至れるケースはまれだ。加えて、奇跡的に至れた場合も、そこで魔物たちに迎撃げいげきされてしまえば犬死いぬじにとなる。


 ――こうした熾烈しれつな生存競争を強いられる点も、今まで昌弥が尻込しりごみしていた大きな理由のひとつだった。しかし絶対的な戦力を持ち、縦横じゅうおうに繋がりのあるノーストからパーティ勧誘かんゆうがあった今、風向きは大きく変わったといえる。彼は刻宗の頼みをこころよく引き受けた。


「ああ。では差し当たり、われのよき理解者が仕切しきっているリザードマンの集落まで護衛ごえいするとしよう。あそこならば、うぬに対して偏見へんけんをもつ者はおらぬ。到着次第、存分ぞんぶんに愛珠獲得へはげむとよい」


「あ、ありがとうございます、ノーストさん……!」


「すると、このままパリヴィクシャ殿のところに戻るのじゃな?」


「そのつもりだ。しかしその前に……吾らが遠征えんせいしてきた目的も果たさねばな。里長さとおさよ、例の二名について何か知らぬか? 森を監視かんししている以上、情報が皆無かいむということもあるまい」


「……夕鈴殿なる人間と、トレチェイスなる魔物の動向どうこうか。それがしの記憶が正しければ、過去に人間の姿をした者が現れたことはなかったが……ちなみに、夕鈴殿の境遇は?」


「地獄をてこの地に至った、人間()がりの魂に該当がいとうする」


「ふむ……ならば例にれず、そちらは当初(とうしょ)魔物の姿でこの森に入った可能性が高いな。して、トレチェイスのほうは魔神ましん由来の?」


しかり。出身はこれから吾らが向かう集落、種族はリザードマンだ」


「――そうなると、ひとつだけ心当たりがある」


「! まことか里長殿!」


 一筋ひとすじ光明こうみょうたかぶるガウラ。刻宗は小さくうなずくと、「どうぞこちらへ来られたし」と言ってむろの外に出た。ノーストと昌弥もその後を追う。



 "透視鏡とうしきょう"の前までやってきた四人。

 刻宗の操作によって、過去の映像が鏡のなかで再生され始める。そこには小柄こがらなリザードマンが、森の内部で魔獣と戦っている場面が映っていた。彼にパリヴィクシャの面影おもかげをみたガウラは、思わずノーストを見遣みやる。


「これは……もしかしてトレチェイス殿ではないかのう!?」


「おそらくな。そしてすぐ近くにいるのは……」


 戦闘中のトレチェイスと魔獣、そのすぐ後ろに昌弥と同じような姿をした魔物がへたり込んでいる。魔物は腰が抜けて立ち上がれないのか、両者の死合しあいいを震えながら見守っていた。昌弥は三者の動きを見て、冷静に分析ぶんせきする。


「……なんだか、トレチェイスさんが魔物をかばっているように見えませんか?」


「! 言われてみると、確かにそうじゃな」


「……庇われているほうが夕鈴だと仮定かていして……どういう経緯いきさつだ?」


「申し訳ないが、何故かこれより前の記録は残っていなくてな。諸々、続きを見て判断していただくしかない」


 彼の言葉にかすかな違和感を覚えつつも、一同は引き続き鏡を凝視ぎょうしして顛末てんまつを見届けた。するとトレチェイスが魔獣とほぼ相討あいうちになり、地面に倒れ込む。危篤きとくとなった彼に、いずりながら近寄る夕鈴。彼女は懸命けんめいに介抱をこころみるが、傷が深く助からないとさとったのか、やがて両手を組んで祈りのポーズをとった。


 瞬間、大きな光が生じて巨大な愛珠が生成され、トレチェイスのなかへと入り込む。同時に彼の姿が人間へと変貌へんぼうし、物凄ものすごい勢いで傷がえてゆくいっぽう。夕鈴は身体ごと、忽然こつぜんと消え失せてしまった。その光景にガウラとノーストが目をいているさなか、二人とはまた違った意味で、昌弥は驚愕きょうがくの表情を浮かべる。


「!? 里長、今のって……!」


「うむ。愛の全放出(・・・・・)――夕鈴殿はこの時、たった一人で儀式ぎしきを完遂したとみられる」

お読みいただき、ありがとうございます!

もし続きを読んでみようかなと思いましたら

ブックマーク、または下の★マークを1つでも

押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ