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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第179話 葛藤

 ノーストの見立てでは、夕鈴ゆうりは結界越えをしようとしていたタイミングで楓也と出くわし、魔物化しつつあった彼を愛珠あいしゅで救済したのち、再びそれを集めるべく旅立っていった可能性が高いという。トレチェイスとの因縁いんねん依然いぜんよくわからず、アスターソウルへの進出後、彼女が何を目論もくろんでいたのかまではさだかでないが――。


「いずれにせよ、結界と愛珠の関係性を詳しく知るためには本来、この魔境に二人しか存在せぬ"賢者"と呼ばれる存在に教えをう必要がある。われも以前、そのうちの一人と邂逅かいこうを果たし、諸々(もろもろ)聞き出した経験があるが……察するに、うぬはもう一方いっぽうの?」


 彼のげんに、刻宗ときむね首肯しゅこうした。


左様さようそれがしは賢者の片割かたわれ――現在は地獄から出てきた魂のうち、とりわけ非力な元人間の者をこの里へと迎え入れ、ともに身の振り方を考える任をっている。昌弥まさやを含め、里の皆にはノースト殿が言っていた二つの選択肢……すなわち魔と愛について最初に教え、どちらの道を歩むのか、名を捨てるのか否かを判断させている」


「……先ほども言っておったが、その"名を捨てる"とは一体?」


 そう質問するガウラに答えたのは、昌弥だった。


「生前の記憶や倫理観を消して、新しい名を得る儀式を行うんですよ。そうすれば、敵を倒すのに躊躇ちゅうちょしなくて済むようになるから。それに……オレみたく、過去にしばられて無駄な時間を過ごすこともなくなりますので」


「昌弥殿……」


 必然的に、昌弥は愛の道を選んだことになる。しかしこうして里にとどまり続けているのは、敵を滅ぼすのもかすのも、彼のなかにある大きな葛藤かっとうこばんでいるからに違いあるまい。


(……零子殿を手に掛けようとした挙げ句、自分を殺して地獄へ拉致らちした()。それと同質のエネルギーを根源に持つ魔物たちへの復讐ふくしゅうを踏みとどまるも、かといって彼らに感謝される筋合いなどあるはずもなく……彼はそのぬぐえぬ感情にさいなまれ、身動きが取れないでいるのじゃな。だのに、わしらを見て追ってきたということは……)


 突然、ガウラが目をギュッとつぶってむせび泣き始めた。その嗚咽おえつを聞いて、昌弥はあたふたしている。


「な、ど、どうしてガウラさんが泣くんですか!」


「……だっておぬしは……おぬしの心は……魔を愛そうとしているんじゃろう?」


「!」


「人間であるわしと、魔人であるノースト殿。およそまじわることのないはずの両者が、なぜ行動を共にしているのか……そこに何らかの答えを見出みいださんと、おぬしは心の声にしたがい、勇気を振り絞って里を飛び出した。その誇りと優しさを想うとのう……勝手に目頭が熱くなってしまうんじゃよ」


 そう言ってすみっこに退避たいひし、刻宗から渡された布で顔をおおうガウラ。己を深く理解してくれる者が現れたという事実に、昌弥は身体をふるわせ立ち尽くした。その横に並び、ノーストが言う。


「吾にも、うぬが求めている答えを示唆しさし、導いてくれた同胞どうほうたちがいる。だからではないのだが……昌弥、吾らと共にゆかぬか? 道はけわしくとも、きっと後悔はしないはずだ。そしてその先にはあやつが……零子が、首を長くして待っているぞ」


「っ、うぅ……」


 彼女の笑顔が脳裏をよぎる。瞬間、これまで溜め込んでいたものが全て流れ出るように、昌弥のいびつな形をした目から大粒おおつぶの涙があふれた。

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