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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第178話 二者択一

 道順みちじゅんをすべて記憶しているのか、刻宗ときむねと名乗った魔物は複雑に入り組んだ森の迷路をよどみなく進み、二人を先導した。やがて、からまる木々によってできた天然の袋小路ふくろこうじに着くと、彼はじんを使い、何かの魔法を行使する。


 刹那せつな、まるで静止画の編集で"切り取り"を行ったかのごとく、目の前の光景が整然とした長方形にカットされ、まったく別の場所へと繋がった。驚くガウラのそばで、ノーストも興味深そうにしている。


「今のは……この座標ざひょうにおける物質情報を改ざんしたのか? さてはうぬ、古代魔法の使い手だな」


「おお、その慧眼けいがん……流石さすがに魔人殿(どの)年季ねんきが違うようで。いかにも、それがし十八番おはこは古代魔法。もっとも今しがたの『きょうめつけっ』に関しては、里の者ならば全員がおさめている基本中の基本に過ぎぬがな」


「な、なんじゃそれ!? カッコイイぞい!」


 にわかに目をキラキラさせるガウラと、得意げに右手の親指と人差し指であごはさむ刻宗。彼らを交互に一瞥いちべつしたノーストと昌弥は、肩をすくめて苦笑した。



 そして一行いっこうは案の定、住民たちから怪訝けげんな視線を集めつつも、導かれるまま刻宗のむろに入った。どかっと座布団ざぶとんに腰をおろす彼は、「そなたらも適当に掛けてくれ」とくつろぐよう指示する。ひとまず落ち着いたところで、ノーストが切り出した。


「で、うぬはなぜ己の一存いちぞんで吾らを招き入れたのだ? たとえ里長さとおさの権限を有していようとも、このような独断をすればいたずらに不信感をつのらせるばかりだろう」


「……此度こたび、そなたらを呼び立てた理由はただ一つ。昌弥の生前を知る人物だったからに他ならぬ」


「オ、オレの……? 里長、それはいったい……」


「お前がここに来てから、もう随分と長い時が()ったな。しかし未だ名を捨てる(・・・・・)でもなく、かといって愛を集める(・・・・・)でもなく――お前は停滞ていたいを選び、くすぶり続けている。何か大切なものをかかえているにもかかわらず、二の足を踏むその姿に……某は常々、憐憫れんびんの情を禁じ得なかったのだ。どうにか力になれぬものかと、陰で模索していた」


「!」


「そんなお前が珍しく"透視鏡とうしきょう"をのぞいているかと思えば……こそこそと一人で外へ出てゆくではないか。これを黙って見過ごすほど、某は薄情はくじょうな里長ではない」


 透視鏡というのは、里の中心部に設置されているわばアビヒの森の監視システムらしい。要するに、昌弥はそこでノースト達の存在に気づき、跡をつけてきたようだ。そしてその後ろには、さらに刻宗がステルスで尾行びこうしていた次第である。


「むう、何やら色々と事情がおありのようじゃが……とどのつまり、里長殿は彼がからを破るため、日頃から機をうかがっていたと?」


「そういうことだ。普段、昌弥は全くと言っていいほど他者へ心の内を見せぬゆえ、本意を計りかねていたのだが……そなたらとの会話を聞いてよく理解できた。お前は今すぐにでも、ここをつべきだろう」


「なっ……なぜですか里長! オレは別に、このままでも……!」


「己の胸に聞いてみよ。お前がノースト殿たちを見つけ、居ても立っても居られなくなったその理由を」


「そ、それは……」


 うつむく昌弥。ガウラはいまいち話が見えてこなかったが、いっぽうノーストは何かを察したようである。


「なるほど。昌弥、うぬは愛を集めたいのか」


「っ……」


「しかしそれを実行するには、良くも悪くも、自らをこの次元に拉致らちした魔と同じ、むべきむじなどもを相手取らなければならない。だから逡巡しゅんじゅんしている……そうなのだな?」


「…………」


「? ノースト殿、どういうことじゃ」


「順を追って説明する。まず魔境を生きる者たちは、先に解説した勢力などに関係なく、総じて二つの道を進む選択肢が与えられている。一つは果てなき闘争の修羅道しゅらどうくこと、もう一つは愛を獲得かくとくする長き茨道いばらみちを歩むこと」


 いわく、この世界では敵対している魔物を倒すと相手のエネルギーを強制的に魔珠ましゅ化して、奪うことができるそうだ。これをり続ければ、おのずと戦闘能力が上がってゆくため、強者による搾取さくしゅにも抗えるようになり、生活水準が向上して安泰あんたいむかえるらしい。これが前者の道である。


 逆に、敵対している魔物から感謝の念を引き出した場合は、愛珠あいしゅゆずってもらえることがある。こちらは摂っても戦闘能力に変化は起きないものの、蓄積ちくせき量が多くなるほど外見が人間の姿(・・・・)へ近づいてゆき、精神的な充足じゅうそく感を得られるのだとか。


「大多数は前者を選ぶ。なぜなら後者は高い危険性をはらむわりに、得られる利益が些末さまつで労力に見合わぬと思われているからだ」


「些末……愛珠を集めるメリットはほかに、何か無いのかのう?」


「……一般的にはほとんど知られておらぬが、実は相応の量を集めると例の結界を通れるようになる。知ってのとおり、結界の先には次元のはざまへ繋がる門があり――そこへ至れば魔神の沙汰さた次第で、この魔境からの脱出が叶う可能性がある。者によっては、それが最大のメリットといえるだろうな」


「!? すると、もしや夕鈴(ゆうり)殿や昌弥殿は……」


しかり。両者の本懐ほんかいはアスターソウルへの進出だ」

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