第174話 相関図
集落を発った少し後。
ガウラは別れ際に聞いたパリヴィクシャの話を反芻していた。
『彼の森は、我らが宿敵の発生源とも言うべき忌み地。当時のトレチェイスがどのような思惑でむざむざ赴いたのかは不明だが……もしそこでその夕鈴との邂逅を果たし、愛珠を受け取ったというならば、何か有力な手掛かりが残っているやもしれぬ。同郷の貴様にしか気づけぬ要素もあるだろう、よく調べてみることだ』
(忌み地……)
「何か気になっているようだな、ガウラよ」
思案顔で歩く彼に、ノーストが尋ねる。
「む? おおすまぬ、顔に出ておったか。いやはや不勉強で申し訳ないのじゃが、パリヴィクシャ殿の言っていた"宿敵"とは、誰を指すのかと思ってのう。……忌み地と呼ぶからには、さぞ相容れぬ存在とみえるが……」
「そのことか。まあ人間のうぬが魔境の相関図を知る由もあるまい。……では少し話しながら行くとしよう。ただ黙々と歩くのも退屈になってきたところだしな」
「おお、それはありがたい!」
◇
アビヒの森に向かいがてら、ノーストは語ってくれた。
魔境とは主に、四つの勢力が啀み合っている世界である。一つはパリヴィクシャたちをはじめとする魔物――魔神の力によってこの地に発生した一派であり、これ対して、現在目指しているアビヒの森で発生する魔物は、地獄から出てきた謂わば"出獄者"の魂を持った一派らしい。その多くは好戦的かつ排他的な性格で、魔神由来の魔物たちを毛嫌いする傾向にあるのだとか。つまり宿敵とは彼らを指しているようだ。
(出自の異なる魔物同士での闘争……予想はしとったが、なんとも哀しき関係じゃな。しかし人間とて国や人種、思想の違いで諍いの絶えぬ生き物。わしらはそうした意味でも同朋といえるかもしれぬのう……)
寂寞に包まれつつ、ガウラはそのまま耳を傾けた。
「そして、"出獄者"はさらに二分される。地獄での禊を終えた魂は、直近の転生にて獣を生きた者と人間を生きた者とが存在するのだが……前者が九割、残りが後者といったところだな。夕鈴に関しては、必然的に後者のはずだ」
「なるほど……ちなみにその両者も仲が悪かったりするのかのう?」
「場合にもよるが、概ね悪い。というのも、人間上がりの魂は他のどの種族とも違う異形の身体を持ち、獣上がりと比べて戦闘能力が大きく劣っているからだ」
「……異分子は受け入れぬ。そういうわけじゃな」
「……ああ。よって人間上がりは独自のコミュニティを形成して閉じこもり、紛争を避けて粛々と暮らすケースが多い。奴らは身を隠す技術に長けているゆえ、ツテがなければ発見するのは至難の業といえよう」
「ふむ。夕鈴がそのコミュニティに属している可能性は?」
「無いな。過去に属していた時期がある可能性は否定できぬが、楓也が"人間の姿をしていた"と言っていた以上、今は脱退していると考えて良いだろう」
「? なぜそう言い切れるんじゃ」
「……それについては然るべきタイミングで補足する。先に勢力の話をまとめるが、最後の一派は――魔獣だ」
話の途中ですみません(時間切れ)。
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