第170話 大金星
《あらよっと》
光を纏った魔神に躊躇なく手を突っ込むムンディ。すると忽ち輝きは失われ、元の黒い霧へと戻った――否、強制的に戻されたのだろう。彼はすかさず、まるで鷲掴みするようにそれを拘束し、今度は五芒星めがけて叩きつけ、ブラックホールに吸わせる直前で寸止めした。
《消える前に一つ答えな。お前、誰の命令で動いていた?》
《ギギ……裏切り者に売り渡す情報などない……》
《はあ? なに言ってんだお前。俺様たちゃ魔神なんだぜ? 謀叛、殺生、恐喝上等ってなもんだろ。……そこで提案するが、最後にとびきりデカイ共犯なんてどうだ? 史上稀に見る花形だと思うぞ》
《狂神め……》
《ん、闇堕ち荒魂にそう言われるとなんか箔がつくな。じゃ、その置き土産に免じてこの場は勘弁してやるよ》
ムンディが掴んだ手をぱっと離し、魔神がブラックホールに沈んでゆく。ところが、五芒星を象っていた墨汁が急激に滲み、紙に亀裂が入ってしまう。
《あー、依代のキャパが足りないらしい。零子ガール、これ力作みたいだが……俺様が改変しても怒らないか?》
「へっ? は、はい、捕縛がうまくいくなら、なんだってOKです! むしろお願いします!!」
《クク、了解》
彼は自らの親指をポキリと折って外し、何かを念じながら追加でブラックホールに投げ込んだ。不思議なことに紙と五芒星は修復され、うまく封印が完成したようだ。辺りは一気に、元の静謐を取り戻す。
《一丁上がり。この紙、近日中に専用の紐で括って厳重に管理したほうがいいぜ。あんたの手並みを見るに、そういうの詳しい師がいるよな? 仔細はそいつに教えてもらえ》
「? わ、わかりました……」
「つーかムンディ、お前どうやってここに!? メチャクチャ助かったぜ!」
《おお、今の奴"山の神"の光を使っただろ? あれが目印になったんだよ。……ウーから座標情報が送られてきてはいたんだが、それだけじゃここまでドンピシャに割り込むのは難しかった。あんたらよく奴に隙を生じさせたな。四人とも大金星だぜ》
「……いえ、ぼくは何も。和迩さんの対応策と阿岸君の焚きつけがなかったら、今頃は……」
「わたしも、みなさんが大変なときに固まってしまって……本当にごめんなさい」
《あれ? もしかして褒めかた間違えたか?》
想定とは異なる反応が返ってきて、バツの悪そうなムンディ。場の空気を取り繕うように、零子が慌ててフォローする。
「いえいえ! お二人の協力があったからこそ、この結果に着地できたんですよ!」
「そうだぜ、これは全員でもぎ取った勝利だ。……しかし、楓也の体調不良はあいつの影響だったとしてよ……椰々さんはどうしたんだ? 今も顔が真っ青みてぇだが……」
「! それは……」
曇る表情、そして彼女の心に想起されたビジョンを視て、ムンディは顎を触りながら納得した。
《――なるほどな。あんたの口から言いづらいなら俺様が代わりに言ってやってもいいぞ。どうする?》
「ちょ、ちょっとムンディさん。無理に詮索するような真似は……」
「ありがとう零子ちゃん。でもこれはきっと、偶然の巡り合わせではないと思いますから……自分の言葉で、簡潔に共有させていただきます」
そうして彼女は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸してから語り出す。
「先ほどの魔神が最初に纏っていた、オレンジ色の粒子……あれは、わたしの親友が自殺したときに漂っていた霧と……まったく同じものでした」
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