第166話 在りし日
その後、適宜動きやすい靴と服装に着替えた四人は、車を降りて徒歩で森林地帯を進んでいった。やがて目的地が見えてきた刹那、おおよそこの時間帯に現場へ着くだろうと事前に伝えてあったヴェリスとシムルから、"アスター王国の勲章"を使って全員へ着信が入る。視界の端に突如として出現したマークに、零子はたいそう驚いた。
「わ、びっくりした! 本当にデバイスがなくても届くんですね……」
「ああ。ここを押せば通話が始まるぜ」
佳果に倣い、マークに触れる一同。
果たして二人の姿が空間投影された。
『こんにちは』『よお兄ちゃんたち』
「おーっす。……ん、お前らそれどこにいるんだ? 家ん中みてーだが……」
『村のかたが貸してくださった宿に集まっているのですよ』
チャロが後ろから顔を出す。さらに、その向こう側にガウラとノーストが映った画面が浮かび上がっているのが見えた。どうやら現在、仮宿にて現実世界、アスターソウル、魔境という三つの次元を中継している状況のようだ。シムルが捕捉する。
『おれとヴェリスは次の修行に向けて調整してるとこなんだ。で、ご覧の通りじーちゃんたちはもう魔境入りして調査を始めてるぜ』
「そうだったんだ! えへへ、こうして繋がっているのがリアルタイムでわかると、みんな一心同体って感じがして安心するね」
楓也がそう言うと、ヴェリスはいつものように「ん!」と元気に答えて微笑した。そして一瞬の間をおき、まじまじとこちらを覗き込む。
『……女の子じゃない楓也もいい感じ。アーリアと零子も、すっごくかわいい』
「はは、どうもありがとうヴェリス」
「まあ! 嬉しいです!」「やたー、褒められちゃいました!」
にわかに笑顔を取り戻す三人。まもなく現場だという緊張感と、険しい悪路による消耗も相まって、直前まで表情を硬くしていた彼らだったのだが――今しがたの会話で程よく解れたようだ。その機微を感じ取った佳果とシムルが目を細めるなか、チャロは落ち着いたトーンで確認する。
「それで、あそこに見えている慰霊碑が件の?」
「! はい……そうです」
零子の案内により、小さく細長い石碑が立てられている地点に到着する。彼女はさっそく、生前に昌弥が好んでいたという菓子と飲み物を供えに行った。
どこか儚げな背中を見守りながら、佳果が提案する。
「……まずはみんなで黙祷しようぜ。ヴェリスとシムルも、こういうのに馴染みがあるかはわかんねぇけど……昌弥さんに、祈りを捧げてくれないか」
『わかった』『もちろんだ』
鳥の声と木々のざわめきが響くなか、次元を跨いだ七人の追悼が一つになる。
――彼や夕鈴のような御霊が、最終的にどうなるのかはまだわからない。
ただ、今は在りし日の幸せを偲び、ひたすらに手を合わせる。
過去と未来。その双方を、真の意味で愛するために。
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