第163話 集合意識
「……ってことがあったんだけどさ」
いったん修練を終え、村にもどってきたシムルとヴェリス。彼らは仮宿に泊まっているチャロのもとへ行き、相談を持ちかけているところだ。内容はもちろん、先ほど遭遇した奇妙な出来事についてである。
「おや、さっそく実地で感覚を掴んだようですね。それは"万物のささやき"と言われる現象ですよ」
「ばんぶつ……? なにそれ?」
首をかしげるヴェリス。チャロは「ふむ」とあいづちを打つと、少し考えてから返答した。
「お二人はもう、この世に集合意識が存在することは腑に落ちていますか? 黒いモヤに瘴気、世界の光といった類の話ですけれども」
「それはまあ……今まで実際に見聞きしてきてるわけだしな」
「うん。みんなの感情が集まったものなんだよね?」
「そのとおりです。しかし実は、集合意識にはもっとたくさんの種類がありまして。例えば感情の未発達である動物たちは"情緒の集合意識"をもっていますし、情緒がほとんど無い虫や植物などは、"本能の集合意識"をもっています」
「はぇー」「ん」
「さらに言うと、水や岩石をはじめとした無生物にさえ"無我の集合意識"が存在しており――これらは、それぞれの個が放つ周波数と繋がっています。よって個を捕捉すれば、集合意識の声が聞こえてくる場合がある」
「ん~……わかったような、わからないような? じゃ、おれがさっき食べたラムノンの声は、本能の集合意識だったと?」
「そうなりますね。シムルさんのお話を伺ったかぎり、ラムノンという品種は"誰かの糧になりたい"。そんな本能の集合意識をもった草果物だったのでしょう。そして彼らにとっては、その本能を満たすことこそが生の目的。先天的に備わっている願いであり、役割なのです」
彼女の解説を聞き、シムルは腕を組んで自分なりに解釈してみた。
(つまり、最後に感じたあの大きな流れは集合意識で……そこへ辿り着けたのは、ラムノンの本能をおれが満たして共鳴したからか。でも、なんで……)
「なんでわたしにはその声が聞こえなかったんだろう?」
彼の思考とシンクロするように、ヴェリスが質問する。
息ぴったりな二人にチャロは微笑んだ。
「"自分は超感覚を持っているのに不思議だ"、と感じるかもしれませんが……万物のささやきを捕捉するには、相手への深い理解が不可欠です。まず大前提として、SSⅧ以上であることが必須条件」
(! やっぱ『輝いてる奴』ってのはSS絡みだったんだ)
「加えて、縁を結んでいる必要もあります」
「ほう」「縁?」
「ええ。ここでいう縁とは、捕捉をおこなう側の周波数が相手のそれに触れたとき……いわゆる"相性"が良かった場合に、自動で結ばれる目には見えない絆を指しています。ヴェリスさんは今回、この縁が不足していたとみるべきですね」
「そうなんだ……わたし、ラムノンを見たのは今日が初めてだった」
「ひきかえ、おれは昔から世話になってたから当然っちゃ当然なわけか。……けど姉ちゃん、集合意識ってさ。前に言ってた個と全の観点から見ると、どういう感じの――」
「! ごめんなさい、ちょっと失礼」
シムルが何かを言いかけた瞬間、チャロは唐突に眼前の空間へ映像を投影する。そこには魔境入りしたと思われるガウラと、ノーストの姿が映っていた。
◇
現実世界の昼下り。
無事に熊本県の空港へ到着した佳果、楓也、椰々の三人は、先行して福岡県から車を走らせ、待機していた零子と合流を果たしたところである。
「わぁ~~~、お姉さま美しいですね!!」
ハイテンションで椰々の手を握り、ぶんぶんと縦に振る彼女。ツヤのある明るい栗色の髪の毛はセミロングで、事故のあった当時よりも少し伸びていた。丸っこい紫紺の瞳と表情の豊かな顔は、椰々をキレイ系とするならカワイイ系といったところだろうか。
またスポーティな格好とナチュラルメイクが非常に健康的で、その快活な雰囲気はアバターの艶っぽさと比べてギャップを感じるものの、本人の言動自体はまったく変わらず、いつものごとく愛嬌たっぷりである。
「お二人も、遠路はるばる来てくださって本当にありがとうございます! あたしが和迩零子ですよ~! ……こんな感じでガッカリしましたか?」
「かか、なに言ってんだよ零子さん。むしろイメージどおり過ぎるっつーか、めちゃくちゃ安心してるぜ」
「だよね! 椰々さんも零子さんも、ゲーム内とはまた違った魅力に溢れてますけど……魂は"家族"としてよく知っているお二人ですから。今日はお会いできて、とても嬉しいです!」
「おお、楓也さんがイケメンだ……というかあなた、改めて美青年すぎません!? なんかちょっと凹むんですけど!」
(うふふっ、零子ちゃんが来たら一気に賑やかになったわね)
その後、挨拶を終えた四人は零子の車に乗り、いよいよ現地に向かうのだった。
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