第9話 徳をつむ不良?
「結論からいいましょう。このゲームの本質は"SSを上げること"。まさに今、あなた方がやろうしていることと同じです」
「……その方法がわからねぇから、ここまで来たんだっつーの」
「そう逸らずともお教えしますよ。方法はただ一つ……イベントの完遂です」
「イ、イベントですの? それならわたくしも、ギルド時代にたくさん消化したはずなのですが……」
「そこいらに転がっている汎用のイベントではありません。SS上げのための専用イベントが存在するのです。ただ……そのフラグ立てが非常に難儀でしてねぇ」
情報屋によると、フラグ立て――イベントの発生条件となる要素はぜんぶで四つある。一つ目はパーティを3人以上で組んでいること。これは奇しくも、佳果たちはクリア済みだ。二つ目はステータスのMND、つまり精神力の項目が一定以上の数値に達していること。
「MND……いくらレベルを上げても、ほとんど変動がない値だね」
「ええ。わたくしも初期値からほぼ変わっておりませんわ」
「確認してみるが…………俺は7だな」
「アーリアさんも7でしたよね。ぼくは5だ」
「ほほう。270レベルのアーリアと新米YOSHIKAが同値ときましたか……諸説ありましたが、これは確定的……」
「あん? どういう意味だよ」
「フフフ。MNDは現実世界における、あなた方の精神力を数値で表したもの。強いトラウマを持つ者ほど、高くなる傾向にある」
「ッ! てめーまた……!」
「クク、私もそこまで性悪ではありませんから、もう掘り返したりしません。どうか機嫌をなおしてください」
「……ちっ。で、一定以上の数値ってのは」
「MNDが5以上あれば条件はクリア。この時点で大半のプレイヤーは脱落してしまいますが、どうやらみなさんは、これについても満たしていらっしゃるようですね」
「では、残りの条件はどうなっておりますの?」
「三つ目はパーティの平均レベルが150以上であること。もぷ太くんはもう180レベルだったかな。他のお二人と足して割ると……平均は160。フフ、こちらもOKですね。となると問題は四つ目――SSのかっこ内がC以上になっているかどうかです。パーティのうち一人でもD以下がいれば、条件がそろわなくなってしまう」
改めて調べると、アーリアは《SS-Ⅸ(B)》、楓也は《SS-Ⅵ(C)》となっている。
この二人は大丈夫そうだ。問題は、佳果のアスタリスクである。
「……結局、このアルファベットは何を指してますの?」
「これも暫定情報ではありますが、おそらくは"徳"です」
「トク……? ってなんだ」
「定義するのは難しいですね。働いた善行の度合い、とでも言っておきましょうか」
「要するに、どれくらい人を助けたり喜ばせたりしたかってことだね」
「なるほど」
「徳ですか……このアルファベットに、そんな意味がありましたのね」
「さて、条件はこれで全てです。もし四つ目も満たしているのなら、あなた方はすでに資格を持っていることになる。逆に満たしていなかったとしても、もうやるべきことはわかりましたね? それがこのゲームの本質です」
不意に、情報屋が無音で空中に浮かび上がり、そのままガラスの割れた窓から出ていこうとする。佳果は慌てて呼び止めた。
「おい待てよ! まだイベントってのがどこで発生するのか聞いてねーぞ!」
「おやおや、そのくらいは自分たちの力で頼みます。……それでは失礼をば。楽しみにしていますよ、あなた方が今後どのような軌跡を描いてくれるのか……フッフフッ……クハハ……!」
不快な笑い声とともに情報屋は空へと消えていった。
◇
どっと疲れた佳果たちは、一旦建物を出てレストランで休憩することにした。
食事をしながら、先ほど得た情報について相談する。
「楓也。あの情報屋が言ってたこと、まるごと信じてもいいのか?」
「うーん。あの人がタダで情報をくれるなんて、異例中の異例だったからね。うのみにはしないほうがいいかもだけど……方針を決める材料にするのは問題ないと思う」
「そうですか。しかし楓也ちゃん。あの方とは一体、どういった関係なのですか?」
「……ごめんなさい。それは今、話すことができなくて」
「……わかりました。無神経でしたわね。こちらこそすみません」
微妙な空気が流れる。
それをぶち壊すように、佳果はスタミナ丼を食べながら言い放った。
「なあ、それよか。俺らはもう条件満たしてるって話だったよな? さっそくこの後、しらみつぶしにイベントが起きそうな場所、探してみねーか」
「え、でもまだアスタリスクの解明が……」
「んなもん大丈夫に決まってるだろ」
「佳果さん? それはどういう……」
「俺は生まれてこの方、世の中の理不尽ってやつを相手に闘ってきたんだ。てめぇの心にしたがってな」
「え、うん……」
「なら"トク"ってやつも勝手についきてるはずだろうが。確かにあの記号の意味はわからねぇけどよ……気にするだけ時間の無駄だ。違うか?」
独自の理論を語る佳果。アーリアが「彼、こんな感じでしたっけ?」と小声でいうと、楓也は「時々、本当にすごいなぁと思うことがあります」と苦笑しながら返した。場の雰囲気はすっかり元通りになり、三人は美味しい料理を堪能しながら、ひとまず次の目的地を取り決めるのであった。
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