表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/355

第9話 徳をつむ不良?


「結論からいいましょう。このゲームの本質は"SSを上げること"。まさに今、あなた方がやろうしていることと同じです」


「……その方法がわからねぇから、ここまで来たんだっつーの」


「そう(はや)らずともお教えしますよ。方法はただ一つ……イベントの完遂です」


「イ、イベントですの? それならわたくしも、ギルド時代にたくさん消化したはずなのですが……」


「そこいらに転がっている汎用のイベントではありません。SS上げのための専用イベントが存在するのです。ただ……そのフラグ立てが非常に難儀でしてねぇ」


 情報屋によると、フラグ立て――イベントの発生条件となる要素はぜんぶで四つある。一つ目はパーティを3人以上で組んでいること。これは()しくも、佳果たちはクリア済みだ。二つ目はステータスのMND、つまり精神力の項目が一定以上の数値に達していること。


「MND……いくらレベルを上げても、ほとんど変動がない値だね」


「ええ。わたくしも初期値からほぼ変わっておりませんわ」


「確認してみるが…………俺は7だな」


「アーリアさんも7でしたよね。ぼくは5だ」


「ほほう。270レベルのアーリアと新米YOSHIKAが同値ときましたか……諸説ありましたが、これは確定的……」


「あん? どういう意味だよ」


「フフフ。MNDは現実世界における、あなた方の精神力を数値で表したもの。強いトラウマ(・・・・・・)を持つ者ほど、高くなる傾向にある」


「ッ! てめーまた……!」


「クク、私もそこまで性悪(しょうわる)ではありませんから、もう掘り返したりしません。どうか機嫌をなおしてください」


「……ちっ。で、一定以上の数値ってのは」


「MNDが5以上あれば条件はクリア。この時点で大半のプレイヤーは脱落してしまいますが、どうやらみなさんは、これについても満たしていらっしゃるようですね」


「では、残りの条件はどうなっておりますの?」


「三つ目はパーティの平均レベルが150以上であること。もぷ太くんはもう180レベルだったかな。他のお二人と足して割ると……平均は160。フフ、こちらもOKですね。となると問題は四つ目――SSのかっこ内がC以上になっているかどうかです。パーティのうち一人でもD以下がいれば、条件がそろわなくなってしまう」


 改めて調べると、アーリアは《SS-Ⅸ(B)》、楓也は《SS-Ⅵ(C)》となっている。

 この二人は大丈夫そうだ。問題は、佳果のアスタリスクである。


「……結局、このアルファベットは何を指してますの?」


「これも暫定情報ではありますが、おそらくは"徳"です」


「トク……? ってなんだ」


「定義するのは難しいですね。働いた善行の度合い、とでも言っておきましょうか」


「要するに、どれくらい人を助けたり喜ばせたりしたかってことだね」


「なるほど」


「徳ですか……このアルファベットに、そんな意味がありましたのね」


「さて、条件はこれで全てです。もし四つ目も満たしているのなら、あなた方はすでに資格を持っていることになる。逆に満たしていなかったとしても、もうやるべきことはわかりましたね? それがこのゲームの本質です」


 不意に、情報屋が無音で空中に浮かび上がり、そのままガラスの割れた窓から出ていこうとする。佳果は慌てて呼び止めた。


「おい待てよ! まだイベントってのがどこで発生するのか聞いてねーぞ!」


「おやおや、そのくらいは自分たちの力で頼みます。……それでは失礼をば。楽しみにしていますよ、あなた方が今後どのような軌跡を描いてくれるのか……フッフフッ……クハハ……!」


 不快な笑い声とともに情報屋は空へと消えていった。



 どっと疲れた佳果たちは、一旦建物を出てレストランで休憩することにした。

 食事をしながら、先ほど得た情報について相談する。


「楓也。あの情報屋が言ってたこと、まるごと信じてもいいのか?」


「うーん。あの人がタダで情報をくれるなんて、異例中の異例だったからね。うのみにはしないほうがいいかもだけど……方針を決める材料にするのは問題ないと思う」


「そうですか。しかし楓也ちゃん。あの方とは一体、どういった関係なのですか?」


「……ごめんなさい。それは今、話すことができなくて」


「……わかりました。無神経でしたわね。こちらこそすみません」


 微妙な空気が流れる。

 それをぶち壊すように、佳果はスタミナ丼を食べながら言い放った。


「なあ、それよか。俺らはもう条件満たしてるって話だったよな? さっそくこの後、しらみつぶしにイベントが起きそうな場所、探してみねーか」


「え、でもまだアスタリスクの解明が……」


「んなもん大丈夫に決まってるだろ」


「佳果さん? それはどういう……」


「俺は生まれてこの方、世の中の理不尽ってやつを相手に闘ってきたんだ。てめぇの心にしたがってな」


「え、うん……」


「なら"トク"ってやつも勝手についきてるはずだろうが。確かにあの記号の意味はわからねぇけどよ……気にするだけ時間の無駄だ。違うか?」


 独自の理論を語る佳果。アーリアが「彼、こんな感じでしたっけ?」と小声でいうと、楓也は「時々、本当にすごいなぁと思うことがあります」と苦笑しながら返した。場の雰囲気はすっかり元通りになり、三人は美味しい料理を堪能しながら、ひとまず次の目的地を取り決めるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

「わたしも日夜、世界と闘っています」

という方がいらっしゃいましたら、

ブックマーク、または下の★マークを1つでも

押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ