第160話 裏技
その後、会議の末――陽だまりの風の方針は決まった。
まず、フィラクタリウム普及計画の完遂を目標に動くのは依然として変わらない。よって魔除けの"加工"を引き続き行ってゆくわけだが、アーリアと零子以外のメンツも愛が85%を超えた現在、生産効率はかなり上昇する見込みである。
またそれに伴い、同時進行でシムルの固有スキル無しによる瞬間移動、およびヴェリスの超感覚制御の習得も急ぐ。彼らの能力は本計画における要となるため、コツを掴むまでは従来の方法で練習しつつ、適宜チャロや明虎を捕まえて効率的に進める予定だ。二人はやる気十分で、既に意気揚々と訓練へ出かけている。
いっぽう現実世界組の佳果と楓也、アーリアと零子の四人はいったん、約束していたオフ会を明日決行し、昌弥の状況を確認しに行くということで合意した。なおウーの姿が昨日から見当たらない問題があったが、先ほど本人から念話が入り、彼はまだ次元のはざまにいると判明している。何やら果たすべき使命があるらしく手が離せないそうだが、幸い零気のほうは問題なくサポートできると言っていた。
そして残るガウラは、アルバイトの都合もあり此度のオフ会には参加しない。その代わりに、彼はなんとノーストの魔境探索に加わるつもりだ。
「……しっかし、お前の固有スキルには驚いたぜガウラ」
「本当だね。アスターソウル内では扱いの難しい効果だけど、ノーストさんの護衛があれば実質的に永続だし」
「ヌハハ、我ながら燻し銀なスキルを授かって満足しておるぞ!」
ガウラの固有スキル《ラクシャマナク》は、物理と魔法攻撃に限らず、デバフ、地形・環境ダメージや状態異常、精神汚染にいたるまで、自分にとって不利益な現象を一度だけ拒絶する、いわば絶対防御の効果をもつ障壁を展開できる。
クールタイムは24時間、拒絶が発動すると自動的に解除される仕様だが、これは逆にいうと被害にあわなければ常に無敵状態を維持できるのと同義だ。
「吾もバリアの類は手札の一つとして持っているが……うぬのそれは差し詰め、最上位互換とでもいったところか。一度の被弾で瓦解するのは玉に瑕といえども、あらゆる先制を凌げる意味では無二の能力に違いあるまい」
「ふふ、戦術の幅を広げる優れものですよね。ですがその真価はあくまでも、先刻申し上げた"次元干渉への耐性"となります」
――時は少し前に遡る。
会議の終わり際、楓也がふと「ノーストの転位魔法を利用して結界を無視し、全員で魔境へ飛ぶのはどうか」と思いつき提案した。しかしチャロによると、当該の手法は、法界の箱舟を使って魔境入りしたときと同じく、内実的には次元のはざまを経由するかたちになるらしい。
つまりすぐに現地へ飛べるのは確かであるが、その一瞬で大量の瘴気に蝕まれてしまうため、魔人のノーストは平気でも人間は自我崩壊待ったなしなのだという。これは真の勇気を発揮できる佳果や楓也であろうとも、瞬間的な汚染が上回る関係で例外にはならないのだとか。
ところがこの場合、汚染の当たり判定が一回に縮小されるそうで、ラクシャマナクを使えるガウラに限ってはさながら裏技のごとく、突破が可能になるとのことだ。これこそが今回、彼が魔境へ行ける主な理由であった。
「……ただしノースト。突破の直後から丸一日、ガウラさんはスキルが使えなくなるわけです。その間はいっそう慎重に、守りを固めてあげてくださいね」
「言われるまでもない。で、ガウラの魂にだけ、うぬの光を宿すのだったか?」
「ええ。それを介せばこちらもある程度、向こうの状況を視られるようになりますから。これは人間である彼にしか務まらない役目……魔人のあなたにとってつよい光が猛毒である以上、適材適所というやつです」
「……合理的だな。ではガウラ、流石にレベル1のままでは心許ない。先んじてレベリングに出かけるぞ」
「相わかった! 佳果たちの分まで、わしらが全力で捜索を進めるとしよう。皆は大船に乗った気持ちで吉報を待たれよ!」
「へへっ、サンキュー。この二人なら百人力だぜ!」
「心強いかぎりだね! よし、じゃあ魔境のほうは二人を託して、ぼくたちも行動開始といきましょうか」
「ええ! 詳しい段取りについては、現実の通話アプリで改めて話を詰めるといたしましょう。今、わたくしのIDをお伝えしますわ」
「あ、なら一応あたしのも伝えておきますね~」
こうして陽だまりの風は、各々の役割を果たすべく動き出した。
ウーさん、裏で何かをやっている模様。
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