第159話 彼女のゆくえ
「守護魔……まさかあなたがそのような仕事を担っていたとは。しかしそうなると、この三ヶ月の間に夕鈴を見かけている可能性もあるのではないでしょうか?」
「あ、そうですよね……! ぼくが見かけたときの彼女は、人間の姿のままでしたけど……ノーストさん、心当たりはありませんか?」
チャロの推理に楓也が同調する。ところが彼はゆっくりと首を横に振った。
「すまぬが、吾の知るかぎり目撃情報はない。だが妙だな……魔に属する者どもが跳梁する彼の地において、人間の姿は反って異形に映る。どこかに潜んでいるにせよ、風説すら耳に挟まぬのは不自然極まりない」
「むう……楓也の話では、確かトレチェイスという名の魔物とともに何か画策していた様子だったのじゃろう? ならばそちらを当たってみるのは如何かな?」
ガウラの提案に他の面々も電球マークを浮かべる。
ノーストは目を閉じて思案した。
「トレチェイス――その名を持つ者に個人的な知り合いはおらぬが、響きからして、訪ねる価値のありそうな場所の候補は幾つか思い当たる」
「マジか! んじゃそれらを虱潰しに回っていきゃあ……」
「夕鈴ちゃんに纏わる手がかりが見つかるかもしれませんわね!」
晴れる佳果の表情に、アーリアはにっこりと微笑みかけた。とはいえ、そこには大きな問題が立ちはだかっている点を忘れてはいけない。零子が言及する。
「あ……でも魔境って、あたしたちが探索するには玄関先にある、あの結界を再度壊さないとダメなんですよね? 楓也さんはもう突破できないかもと仰っていた気がしますが……」
「……はい。例によって結界を破壊するには、まず著しく魔の濃い状態の魂をつくる必要があります。そして仮にそれができたとしても、そのあと自力で愛の光を取り戻すのが困難なのです。魔物化が始まり、自我を保てなくなってしまうから」
「! 兄ちゃん、あの時そんな危険な目にあってたのかよ!」
「うん。まあ押垂さんとトレチェイスさんが光のエネルギーをくれたお陰で、その場はなんとかなったんだけどね。でも二人とも直後にどこかへ消えてしまって……」
(光のエネルギー……どこかへ消えた……)
楓也の説明を聞き、考えるポーズをするチャロ。彼女をじっと見つめていたヴェリスは、このタイミングでずっと抱えていた疑問をぶつけてみることにした。
「ところでチャロ。どうして結界を修復したの?」
「……もっともな質問だ。あれの制御はうぬの担当だったと聞いたが、小娘よ。結界とはそも誰が構築し、何の目的で存在している代物なのだ? それ次第で視野が開けるかもしれぬ。差し支えがないなら教示願おうか」
ノーストが便乗する。しかし彼女は申し訳なさそうに言った。
「いえ、残念ながら……わたしが任されていたのは、あくまでも再構築のアナウンスだけです。結界を張ったのは上位存在であるとみてほぼ間違いないでしょうが、その目的や自動修復が組み込まれていた理由までは、詳しく存じておりません。演算能力で割り出すのも不可能でして……」
「また上位存在ってやつか……ま、わからんところをこれ以上ウダウダ議論しててもしゃーねー。とりあえず今はっきりしてんのは、夕鈴の捜索ができるのは目下ノーストさんしかいねえってことだけだ。本当なら全員でやりたかったところなんだけどよ…………任せてもいいか?」
「愚問だな。心配は無用、吾が必ずや真相を突き止めると約束しよう」
彼の不敵な笑みを見て、佳果は「恩に着る」と少し寂しげにお礼を言った。すると横からチャロが補足する。
「その件ですが、もうひとりだけ適任のかたがいらっしゃいますよ」
「? 適任だぁ?」
「ええ。ずばりガウラさんです!」
「ほほう……って、わし!?」
もし楓也が光のエネルギーを受け取らなかった場合、
どういう流れになっていたのでしょうね。
ムンディはそれを『裏の最終関門』と言っていましたが……。
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