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第155話 準備

 翌日の早朝。

 どうやらどう専属の配達員が機転を利かせたらしく、めぐるの手元には早くも念願の荷物が届いていた。彼は満面の笑みで包みを開けると、まるで我が子を抱き上げるかのごとく、優しくデバイスを取り出して二人へ見せびらかす。


「やったよ……! この瞬間を待ちわびてたんだ……!」


「へへっ、良かったなぁ! なんか俺までテンション上がってきちまったぜ!」


「これでいよいよアスターソウルデビューだね! 朝ご飯を食べ終わったら、さっそくみんなでインしてみようか」


「うん! あ、でも……みんなは今日、押垂おしたりさんに関わる重要な話をする予定なんだよね? 自分はアバター作成とチュートリアルもあるから、こっちは気にせず集中してもらったほうがいいんじゃ――」


「おいおい流石さすがに水くせぇぞ? 話し合うのは午後からだし、こういう時くらい気をつかうなって」


「そうだよ須藤君! ぼくたちはヴァルムにいるから、もろもろ終わったら"もぷ太"か"YOSHIKA"あてにメッセージを送ってね!」


「……ありがとう二人とも! よし、じゃあまずは腹ごしらえを済まさなきゃ」


 はやる気持ちをおさえきれず、がつがつと料理を平らげるめぐる。いつになく健啖けんたんな彼に、キッチンにいる家政夫かせいふはニッコリと微笑んだ。



 さきんじてラムスの広場へ帰還した佳果と楓也。

 彼らが現れると、すぐにヴェリスとシムルが駆け寄ってくる。


「おはよう!」


「兄ちゃんたち、早いな」


「おう、お前らもう起きてたのか。あれこれ悩み疲れてまだ寝てると思ってたが……わりかし元気そうでよかった」


「二人ともなんだかさわやかな顔してるね! ちゃんと眠れたんだ?」


「ん! 本当は"特異点"のことで不安な気持ちもあったんだけど……それはあの後、チャロが取りのぞいてくれたから」


何気なにげにノーストさんも話を聞いててくれてさ。……おれとヴェリスなら、もう色々と踏ん切りはついてるから心配いらないぜ」


 二人はいつまんで、昨晩どんな話をしていたのか共有した。結果、あんじょうチャロも此度こたびの時間軸移行について前向きにとらえているふしがあると判明する。佳果たちもおおむね同意見であると説明していると、うわさをすれば当人らが現れた。


「戻りましたね、阿岸佳果」


「定刻まではまだしばらくあるはずだが……何やら事情がありそうだな」


 さっしのよいノーストの言葉に佳果はうなずき、今日はめぐるが満をしてこちらの世界へやってくるむねを伝えた。


「うぬらの窮地きゅうち助太刀すけだちしたという人間か。なかなかに気骨がありそうだ」


「ああ。あいつが気張きばってくれなかったら、俺たちは今頃ここに立ってねぇ。マジですげぇやつだよ、めぐるは」


「……ならばわれらも間接的に助けられたことになろう。後ほど礼を言わねばな」


「はは、ノーストさんは相変わらず律儀ですね」


 楓也が嬉しそうに笑うと、彼は「あくまで筋を通すだけに過ぎぬ」と言い残して木陰こかげのほうへ去ってゆく。それを聞いたシムルは「じゃあおれたちも昨日のお礼を言わないとな」とヴェリスをさそい、ノーストを追いかけていった。


「……で、チャロも覚えてんだろ? お前がセンコーぶったった時、横で倒れてたあいつだぜ」


 村人の何人かがギョっとした目でこちらを見ている。


「ひ、人聞ひとぎきの悪い言い方をしないでくださいますか!? あれは彼でなく依代よりしろを斬ったのですよ! 魔神ましんを在るべき場所へ送還そうかんするために!」


「! やっぱりあの"邪魔"って言ってたの、魔神だったんですね……でも在るべき場所といいますと?」


「……みょうこうという次元です。度が過ぎるほどけがれてしまった高次の奥魔おうまがやがて行き着く、闇の終着点しゅうちゃくてんとでもいいましょうか。まあ、あなたがたとはおよそ縁のない話ですし、詳しくは語るつもりはありませんけれど」


「……そうか。じゃ、俺らもこれ以上は聞かねぇ」


「? やけに殊勝しゅしょうではないですか」


「昨日あーだこーだ考えてたらよ。お前もお前で、いろいろ大変なのかもなって……そう思っただけだ」


「…………」


 沈黙するチャロに、楓也が耳打ちする。


(昨日、ちょっと自由意志について話しておきました)


(なるほど……彼も単純ですねえ)


「おい、なにコソコソしてやがる」


 チャロは「なんでもありません」と返し、続けてめぐるに言及した。


「それより今日お越しになるという彼ですが、今はアバターの作成中でしょうか?」


「そのはずだ。ってお前、俺のときみたく監視とかできるんじゃねーのかよ」


「昨日ご説明したとおり、わたしの魂は現在この身体へ定着しています。SSも(10)もどきになっていますから……残念ながら、旧時間軸のときほど自由に動き回るのは不可能になりました。特定のユーザー座標に飛ぶのはおろか、今は世界の光がある領域へ行くのも難しい状況です」


「それでずっとこっちにいんのか……とりあえず、めぐるはチュートリアルが終わったら連絡よこしてくれる流れになってるぜ。だがその前にヴァルムへ先回りしておきてえところだな」


「ふむ、ではこうしませんか? 彼からメッセージが入り次第しだい、シムルさんに瞬間移動を使っていただいて、めぐるさんをこちらへお連れする。そうすればアーリアさんと零子さんが入ってきたとき、合流にも手間てまらないでしょう?」


「あ~、確かにそっちのがいいかもしれん」


「ぼくも異論はないです」


「では決まりですね。……わたしも個人的に、彼と会うのを楽しみにしています。今日の会議においても重要人物になるはずですし」


「?」


 チャロの意味深な発言に、佳果と楓也は肩をすくめた。

無明荒野、第113話で明虎が行ってましたね。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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