第152話 いつの日かきっと
夜更けを迎えたラムスの村。
太陽神を中心とした重要情報をひと通り共有し終えた一行はその後、身の回りの状況や頭の中を整理すべく、いったん解散する運びとなった。現実世界のプレイヤーである佳果、楓也、アーリアと零子はログアウトし、残ったヴェリス、シムル、ノーストとチャロは、そのまま篝火に照らされるテーブルを見つめていた。
「……なあチャロ姉ちゃん。次元のはざまで、天使様がさ。おれたちのこと"特異点"と呼んでたんだけど……あれって要するに、最終的には姉ちゃんと同じ存在になってた可能性もあるって意味だよな?」
「わたしも気になる。……わたしたち、みんなと同じ世界にはいられないの?」
「ふむ」
チャロが真剣な顔で二人を見遣る。ノーストは何も言わず、そんな彼らの問答を流し目で静観した。己の存在意義、有無を言わさずに背負わされた宿命――ながき時を生きてきた彼ですら、その不条理に含まれる清濁を解き明かし、併せ呑むには千里に続く茨道を進む必要があった。
ましてや幼子である彼らにとって、それは想像を絶する悪路に映っているに違いない――既に辛酸をなめ尽くしたチャロがどう返答するか次第だが、もし拗れる場合は自分が擁護しなければ。ノーストがそう考えていると、彼女は苦笑して言った。
「……そうした疑念を育てぬために、これまでアーリアさんに気を遣っていただいていたというのに。わたし自身が不安を煽っていては、世話ないですね」
「! アーリア姉ちゃんは知ってたんだ」
「ええ。あの宴の夜、こっそりとお伝えしていましたから。明日フルーカから渡される勲章を利用しつつ、なるべくお二人との絆を深めて、現実世界との乖離を意識させないようにと。まあわたしが頼まなくとも、きっと彼女なら自主的にそうしていたでしょうけど」
「……アーリア、どんなに忙しい日でも必ず、一時間以上は顔を見にきてくれてた。離れた場所にいるときは、メッセージを送ってかまってくれた」
「だな……姉ちゃんの笑顔はいつも無償だった。おれはそれでも隔たりに対するさみしさや憂いを断ち切れたわけじゃなかったけど……もし姉ちゃんがいなかったら、もっと貪欲に、現実世界へ行く方法を探していたかもしれない」
そしてその先には禁忌が、偽りのエピストロフが待ち構えていた未来があった可能性もあるのだ。二人は改めて彼女のあたたかな光を痛感した。同時に、"同じ人間"だと励ましてくれた佳果や楓也への感謝も込み上げてくる。
願わくば、彼らと一緒の世界に在りたい。だがそれでみんなの命が奪われてしまうというのなら、引き下がるより他に選択肢など――。
「ああ、それについてなのですが。阿岸佳果はあの時、わたしのカルマや禁忌を"マヤカシ"だと両断し、大風呂敷を広げてみせました。その結果、太陽神による時間軸移行が発動し、現在に至っている点を考慮すると……」
「え?」「……?」
(ほう)
二人はピンと来ていないものの、ノーストは即座に理解した。諸々が偽装されていたと思しき旧時間軸。そこにあった理を否定した佳果を、上位存在が手ずから肯定するべく新時間軸へ移動させたと解釈する場合。
「……ふふ、そう心配せずともやってきますよ。わたしたちが彼らとともに在れる――そんな夢のような時間が、いつの日かきっと」
前回に続いて重要なお話でした。
特異点とは何のために存在しているのか……?
ちなみに宴の夜=第45話です。
※お読みいただき、ありがとうございます!
もし続きを読んでみようかなと思いましたら
ブックマーク、または下の★マークを1つでも
押していただけますとたいへん励みになります!