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第8話 黒の情報屋

 佳果の魂はエリアⅤ、つまりちょうど中間に属していた。エリアⅠと比べればかなりマシな位置といえるだろう。ただ、かっこ内にはアルファベットでなく*が入っていた。


「阿岸君!」


「どうでしたの!?」


 駆け寄ってきた二人も確認する。通常、ステータス画面は他人が覗くことはできないが、パーティならば可能である。


「わ、よかったね! Ⅴならまだ希望はあるよ! ……でもこれって」


「ええ。アスタリスクなんて……見たことも聞いたこともありませんわ」


「つってもよ。仮にアルファベットだったとして、結局意味はわからないんだろ? なら大差なくねーか」


「それはそうかもしれませんが……」


「ぼくたちはこれから、SSの上げ方――エリア移動について、本格的に調べなきゃいけない。この記号もきっと無関係ではないはずだから、よく考えないとだよ」


 大半のプレイヤーにとって、SSとは単にレベルを縛っている要素でしかない。このゲームは強くなることも楽しみ方の一つではあるが、実際には食事や娯楽施設といった享楽的な需要のほうが高く、30レベル以降でレベリングに心血をそそぐ者は相対的に少なかった。

 要するに、エリア移動は十分な検証がなされていない分野なのだ。


「アーリアさんは元々、一番でかい"ギルド"ってやつにいたんだろ? 名前は確か、『千花繚乱(せんかりょうらん)』だっけか」


「はい。ベラーターになる際に脱退してしまいましたが、わたくしはそこの初期メンバーでした」


「誰か思い当たらないか? SSに詳しいやつ」


「そうですわね……みなさん、あまり攻略には興味がないようでしたから……」


「か~っ、やる気のあるやつはいねーのかよ」


「……あの。ぼく、一人だけ知ってるよ。詳しい人」


 楓也がぽつりと言った。しかしその表情は不自然なほどに暗い。

 佳果はアーリアと目を見合わせて、うつむく彼に言った。


「なんだ、わけありか?」


「ちょっとね。クセの強い人だから、本当は会わせたくないんだけど」


「……俺はどんな奴だろうとかまわねーよ」


「わたくしも大丈夫です。今は少しでも手がかりが欲しいところですし、おとりつぎをお願いできますか?」


「……わかりました。ちょっと待っててください」



 三人は『フリゴ』の町へ戻ったあと、裏路地にある怪しい建物へと入っていった。先方から指定された場所なのだが、薄暗く、カビの臭いがして長居はしたくない。

 階段をあがり、ほどなくして、彼らは物が一切置いていない吹きさらしの空き部屋に到着した。そこで待ち受けていたのは、全身黒ずくめでフードをかぶった人物であった。


「久しいじゃないか"もぷ太"くん。その後(・・・)、元気にやっているのかね?」


 動いても衣擦(きぬず)れする音すら立たず、存在感がまるでない不気味な男。その粘りつくような声に、楓也は淡々と答えた。


「……あなたには感謝しています。でも、そうやって逆なでするのは止めていただけますか」


「これは失敬。今日はSSに関する情報が欲しいんだったね。新米のYOSHIKAにアーリアまで引き連れて……今度は一体どんな喜劇をくわだてているのかな」


「っ……!」


 楓也が見たことのない表情をしていた。過去、この二人の間に何があったのかはわからない。だが佳果は、親友と呼んでくれた彼の心をかき乱す相手の言動を、黙って見過ごせるほど器用ではなかった。

 激昂(げっこう)しかけた楓也を右手で制し、会話に割り込んでゆく。


「あんた、情報屋だってな」


「ええ。そういうあなたは、東京都にお住まいの高校二年生、阿岸佳果くんですね。そっちは北海道にお住まいのファッションデザイナー、知京椰々さん」


「なっ……」


「ふん、なるほどな」


「おや、動じないのですね……さすがは肝がすわっていらっしゃる。やはり、弟さんの一件が相当な修羅場で――」


「おいおい、俺たちは昔話をしに来たんじゃねぇんだぜ。……余計なことくっちゃべってないで、とっとと情報だけよこせ」


「おお、こわい目だぁ……フフ。別に教えるのは構いませんが、対価はどうなさるおつもりで?」


「はっ。てめーならどうせ知ってんだろ。俺たちがやろうとしていることの先に、何があるかってよ」


「ほう」


 初対面でこれだけの個人情報をひけらかしてきたということは、おそらく夕鈴やAIについても知っていると考えてよいだろう。佳果はそれほど頭が良いわけではないが、回転は速く、勘も働くほうだ。このままでは情報屋のペースに飲まれると直感した彼は、無意識にこちら側が持っている有利な点を活用した。


「一つ言っておきますが、私は最終的にあなた方が何を成そうとしているかまでは知りません。無論、予想はできますがね」


「だったらタダで教えろや。てめーみたいなやつは、それだけで(・・・・・)満足できる生き物だろうが」


「……クク……フフ……ハハハ」


 いきなり笑い始める情報屋。他の二人は目を見張り、かたずを飲んだ。


「いや申し訳ない。あなたは想像していたよりも、ずっと目が肥えているようだ」


「嬉しかねーよ。それより、早く情報を出せ」


「では彼に免じて、特別にタダで教えて差し上げましょう。SSについて――この『アスターソウル』が、何を目的につくられたゲームなのかを」

情報屋って胡散うさん臭いことが多いですよね。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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