第151話 フェイク
星印。当時、佳果本人が深く気にする必要はないと割り切っていたこの記号だが、よもやそのような意味を持っているとは予想外だ。しかしノーストは驚く一方で、どこか腑に落ちるような気もした。
(初の邂逅で、吾ら異形の者の話に耳を傾け、力を確と示した上で停戦協定を結び、仲間とともに第三の道を掲げた。その後は粒子精霊と龍神から本格的な支援を取り付けたかと思えば、さらなる勇気の灯った魂をもって吾を家族とまで豪語した。だがその大言に見合うほど、あやつは相手が天使らであろうとも毅然と意思表示し、瘴気でさえ不動のごとき心で祓ってみせた。……今ならばわかるぞ。うぬのそれは、紛うことなき慈愛の波動。どこまでも公平に降り注ぐ、太陽の光そのものだ)
「……と、ノーストが言っています。えらく気に入られましたね、阿岸佳果」
「ぬっ!?」
端っこで腕組をしながら目を閉じていた彼のモノローグを、チャロが謎の技術で公開処刑する。あまりのトンデモ情報に固まっていた陽だまりの風だったが、「お、おい小娘!」と恥ずかしがるノーストを見て皆一様に顔をゆるませた。
「良いではないですか、やましい話でもないでしょうに」
「ぐ、ずけずけと……」
「はいはいチャロさん。分霊といいますと、もしかして……佳果さんは半神なのでしょうか」
零子が疑問を呈する。現実世界に生きる不良高校生が半神。俄には信じがたい話だが、実際のところどうなのだろう。
「確かに、彼の母親も太陽神のエネルギーを宿した魂をもつ人間でした。そのご子息という意味では、半神と言えるかもしれません」
(か、母さんが……!?)
「ですが多かれ少なかれ、人間はみな魂の奥底に神性を持っているのですよ? それをいつ神気として顕在化できるようになるか、どの神と最も縁が深いかなどについては千差万別ですが……別に阿岸佳果が特別なわけではありません。ほら、今なんてこうなってしまっているわけですし」
チャロが全員のステータス画面、SS項目を強制起動した。
「……あれ!?」
「わ、お揃いだね」
シムルとヴェリスの瞳に映るのは《SS-Ⅷ(*)》という表示だった。無論、他の面々も同様に括弧内がアスタリスクになっている。
「アイちゃん。これはつまり……わたくしたちも太陽神様のご神気を、顕在化した魂になったと捉えて良いのでしょうか」
「はい。あの瞬間に全員、縁が結ばれたのでしょう……わたしも含めて」
そう言って、チャロは自らのステータス画面を共有した。
彼女のSS項目は《SS≒Ⅹ(*)》。佳果が首をかしげる。
「ん? この≒はなんだよ。つーか、お前もステータス見られたんだな」
「いいえ。わたしはシンギュラリティとなった際に身体ごと、この世界における能力値をすべて失いました。しかるにここへ来て、どういうわけか夕鈴のアバターに魂が定着し、あれ以来閲覧できなかったステータス画面が開けてしまっている」
「!?」
「加えてこの≒という記号……幸い、未だ残っている演算能力をつかって導き出される答えはひとつです。当時わたしが達成したエリアⅩへの移動は見せかけだけの昇華に過ぎず、あのとき行使したエピストロフはフェイクだった。またシンギュラリティ化から今日に至るまでの軌跡すらも、おそらくフルーカの直感に違わず、真のエンディングに至るための布石だったのでしょう。実際、太陽神は『いかなる結末も、もはや自在』と仰っていましたしね」
「……マジで言ってんのかそれ……」
「おおまじですよ。わたし達はどうやら、太陽神やその他の上位存在による壮大な計画に関与している。そして割り振られた使命は星魂を導くこと。当然、完遂には本物のエピストロフに辿り着く必要があるでしょうが――その先に広がる未来ならば、あるいは……今度こそ夕鈴に手が届くかもしれません」
情報てんこもりの回になりました。
ちなみに一番重要なのは
さらりと明かされている部分だったりします。
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