第149話 太陽神
「そいつは……」
この旅の最終目標でもあった時間軸の移行。それは時空魔法エピストロフと、技術的特異点の演算能力が組み合わさることで初めて実現するはずだった"奇跡"だ。しかしその双方が例の上位存在によって生み出されたものだとすれば俄然、今しがた直面している不可解な状況にも説明がつくかもしれない。
しかし何の目的で、どのような時間軸に移ったというのだろうか。佳果が考え込んでいると、彼の思考を読んだチャロが自身の見解を示す。
「……あの存在はわたしたちのことを、アスターソウル、つまり"星魂"を導く者たちと呼んでおりました。星魂の意味は読んで字のごとくですが、この場合……地球が宿している魂と解釈するのが妥当でしょう」
「え……魂って、地球にもあるんですか?」
楓也が意表を突かれたように尋ねる。チャロは「もちろんです」と答えた。
「星もまた生命体のひとつですからね。何より、皆様がプレイしているこのゲーム世界自体、地球の魂領域をつかって構築された特殊次元なのですよ?」
「ななっ……!?」
さらりと明かされた真実に驚愕する零子。さすがに他の面々もざわついているが、佳果は構わず質問を投げかけた。
「んでよ、どうして地球の魂だって解釈すべきなんだ?」
「あの存在が、太陽神だからです」
「太陽神? なんだそりゃ」
「……まったく、不勉強ですね阿岸佳果。国や地域で呼称は異なりますが、日本においてはおおむね天照大御神と呼ばれている存在のことです。彼の神は地球の魂に安寧をもたらす役割を担っている一柱――よって今回の時間軸移行と思しき現象についても、十中八九それに関連した意図があるとわたしは予測している次第です」
(ア、アマテラス!? なんだかとんでもない話になってきたなぁ……)
楓也は驚きを通り越して、なかば呆れ顔だ。すでに魔神のムンディと会っている手前、今更といえば今更なのだが、身近なところでこれほど神に関する話がポンポン出てくると、いかんせん常識的な感覚が麻痺してしまう。しかし先入観のないヴェリスやシムルは、かえって冷静だった。
「チャロ姉ちゃん。要するに、太陽神様はおれたちに何かをやらせようとしてて、それは地球ってやつの魂の平和を守る目的があって……」
「わたしたちの時間が一気に飛んじゃったのも、その一環だったってこと?」
「ええ、ふたりとも賢いですね! ……どなたかとは大違い」
「お前けっこう根に持つタイプだよな」
「(つんっ)」
「あはは……ちなみにチャロさん、太陽神様は"太陽の雫"から出てきたようでしたけど、当然これらも関係あるんですよね? ……そもそも"太陽の雫"というのはどういう物なんでしょう?」
楓也の疑問に、彼女はなぜか赤面しながら答える。
「……その、恥ずかしながら……あれは元々、わたしが流した涙なのです……」
神様の固有名詞が出てきましたが、
例によって筆者は無宗教ですので
柔軟に捉えていただけますと幸いです。
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