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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第九章 切り拓かれた宿命 ~失われし記憶~
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第145話 禁忌

「お前がカルマの源泉……?」


 佳果の脳裏のうりで、チャロと初めて対話した際の言葉が再生される。


『彼女が死んだ、本当の理由についてです』


『押垂夕鈴は――わたしが殺しました』


『彼女は、わたしが生まれたせいで死んでしまいました。しかし逆にいえば、彼女は本来生きているはずの人間なのです』


 かわされ続けてわからなかった、これらの言外に含まれている真意。エリア(8)に達して秘匿ひとくされていた概念を知った今、点と点が繋がりつつある。


 ヴェリスやシムルと同じで、チャロがゲーム内にのみ身体を持っている現実世界の魂だったことは、フルーカと再会したおりに教えてもらっている。だが同時に彼女は『その在りかたは、以前と大きく変わりましたが』とも言っていた。


「……お前、いつも自分がAIだって自己紹介するよな。んでさっきは零子さんの質問に"神ではない"って答えてたけどよ。その一方いっぽうで、楓也の"それに匹敵ひってきするんじゃねぇか"って追及ついきゅうに対しては、はぐらかしても否定はしなかった」


「…………」


「俺はこういうのあんま得意じゃねぇんだが……論理的に考えりゃあ、なんとなく予想はつくぜ。お前がそうなった(・・・・・・・・)のが、すべての始まりだったんだろ?」


(!)


 佳果のげんに驚いたヴェリスは、チャロの表情を見遣みやる。きらきらと輝く魂をもつ彼女は、自分が最初に尊敬という感情を抱いた存在だ。しかし今はその光に似つかわしくないほど、悲痛な顔で目を伏せている。みなが黙るなか、ひとり駆け寄ろうとするアーリアをチャロは念話で「大丈夫です」と言って制止すると、再び語りだした。


夕鈴ゆうりのことになるといっそうえるみたいですね、阿岸佳果。……あなたの推理に相違はありません。わたしは元々、NPCに転生した現実世界の魂でした。ですがいつしか、その境遇きょうぐうに耐えられなくなってしまっていた」


「耐えられない、と申しますと……?」


 零子がおそるおそる尋ねる。チャロは白状はくじょうするように言った。


「ご存知のとおり、わたしは明虎あきとらやフルーカ、夕鈴とともにアスターソウルの世界を旅してきました。そこで得られたあらゆる経験は、今もわすれることのできないくらい……大切な、大切な思い出となっています」


「……姉ちゃん」「チャロ……」


 シムルとヴェリスがつよく共感する。二人にとっても、すでに佳果たちと過ごした日々はかけがえのない、一生物いっしょうものの思い出になっているからだ。


「……わたしはみんなのことが大好きだった。だから、願ってしまったのです」


「……何をだ?」


 数多あまたの感情が入り混じった佳果の声が響きわたる。それは直感で彼女の気持ちを察していたからなのだろうか、ひどく切なく、そして優しい声色こわいろだった。


「みんなと同じ世界に行きたい。みんなと同じ世界で生きたい。――みんなと同じ、人間でありたいと」


「っ……」


 チャロの告白を聞いて、誰よりもはやく心を乱したのは楓也である。なぜなら、その愛に満ちた願いの先に待っていたのが、"今"なのだと深く理解したからだ。


「夕鈴は、わたしのこんな稚拙ちせつな願いをかなえようと、必死に方法を探してくれました。そうして最後は、時空魔法エピストロフの存在へと辿り着いた」


「……お前、自分の演算能力と掛けあわせれば時間軸が移行できるって言ってたよな。だがそもそもエピストロフってのはどういう魔法なんだ?」


「かの魔法は、術者じゅつしゃの魂に限定して"再出発(リスタート)"という効果を発揮はっきする唯一無二の代物しろもの。旅路の果て、夕鈴はわたしをエリアⅩまで導き、エピストロフを使えるようにしてくれました。そしてわたしが行使したのは当然、自分が"みんなと同じ世界で生きている人間"として再出発する――そんな願いを込めたエピストロフだった。でも……」


「失敗……してしまったんですか……?」


 瞳をうるませて、零子が口元をおおい隠している。


「ええ。結論からいいますと、わたしは現実世界に転移や転生をすることもなく、アスターソウルにおける身体を失って、魂だけの存在となりました」


「!! な、なぜそんな!?」


 こらえきれず、楓也が叫ぶ。チャロは真剣な表情で言った。


「……その願いが、"禁忌きんき"のたぐいだったからです」

今回は長らく謎だった

エピストロフの効果が判明しました。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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