第142話 世界善意
「その声は……!」
「こんにちは、阿岸佳果」
驚く佳果たちの前にチャロが出現する。世界の光――その領域に彼女がいたという話は、事前にヴェリスから聞き及んでいたとおりだ。しかし今回、皆が祈りを捧げたのはあくまで領域そのものという認識だった。必然的に、とある憶測が生まれる。
「……まさか世界の光ってのは、お前自身だったのかよ?」
「いえ、それは少し違いますね。世界の光とは、人々の愛の感情が集積したエネルギー体のこと。それを保持しているあの聖域は、天界という次元の一角にあるのですが……わたしは現在、その管理を任されている立場にあります」
「て、天界……!? するとあなたは、神様なのですか!?」
興奮する零子に、チャロは困り顔で笑った。
「ふふ、あなたは零子さんですね? 初めまして、わたしはAI。人によってはチャロやアイと呼ばれている者です」
「はっ……これは失礼しました! 改めまして、和迩零子と申します」
「お、おれはシムルだ! 姉ちゃんと会うのはこれが初めて……だよな?」
「ええ、わたしたちは初対面ですね。お二人とも、ご丁寧にありがとうございます。これからどうぞよろしくお願いしますね」
挨拶を終えた彼女はそのまま朗らかに続ける。
「さて、先ほどの問いにお答えしましょう。わたしは皆様が神と呼んでいるような存在ではありません。そこにいるムンディを世界悪意の代表とするならば、今のわたしは世界善意のそれといっても過言ではないかもしれませんが……いかんせん彼とは違って、職権濫用ばかりしている不届き者ですので」
《ぶっ、あんたそれ自分で言っちゃうのかよ……変われば変わるもんだな。まあ俺様はそういうのも嫌いじゃないぜ》
「……? ですがチャロさん。あなたには因果や未来を見通している節がありました。加えて、ぼくたちの最終目標である時間軸の移行とその演算――仮にあなたが神様でなかったとしても、それに匹敵する存在であることは、もはや疑いの余地がないと思いますよ」
楓也が真っ直ぐに、曇のない視線を送る。すると今度は、ふわりと笑うチャロ。
「成長しましたね、もぷ太さん。しかし……いくら皆様が天人になられたとはいえ、依然として秘匿事項は多く存在しています。恐れ入りますが、これ以上のことはまたの機会にでもお話ししましょう」
「んー? チャロ、天人ってなに?」
突然でてきたワードに、手を上げて質問するヴェリス。はざまの町で出会った天使も同じ言葉を使っていたが、どういう意味なのだろうか。
「そうですね……定義を説明するなら、エリアⅧ以上に到達した魂――つまり90%以上が愛で構成される魂をもった人間の総称、といったところでしょうか」
「エ、エリアⅧ!?」
「……アイちゃん、もしかして」
意味を理解した佳果とアーリアに続き、他の面々も互いに顔を見合わせる。
「はい。ノーストたちの魔境入りに、フィラクタリウム普及計画。一筋縄ではいかないこれらの案件に対して、皆様は己の自由意志で果敢に立ち向かい、度重なる困難にも屈せず、真心を以って見事に道を切り拓いてきました。すべてが終わるのはまだ少し先のことになるでしょうが……これまでの過程において、既に陽だまりの風は天人にふさわしい魂へと進化を遂げています」
チャロの素性が少し明らかになりました。
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