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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第九章 切り拓かれた宿命 ~失われし記憶~
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第138話 孤独の先に

「考えたら負けだよ兄ちゃん。あのひと太陽たべてるとか言ってたし」


 シムルが両腕を首の後ろに回して苦笑する。やる事なす事すべてが意味不明の明虎あきとら。彼をはかれる者など存在しないのかもしれない。


「あたしは初めてお目にかかりましたけど、皆様みなさま胡散うさん臭いと言っていた理由がよくわかった気がします。……でも正直、助かりましたね」


「ええ、こうして佳果さんが無事でいてくださったのはあのかたのおかげですわ。元は夕鈴ゆうりちゃんのパーティメンバーだったわけですし、やはり悪い人ではないのでしょう」


 陽だまりの風はこれまでも、明虎の介入なしでは上手うまく運ばなかったであろう事例を数多く経験している。零子とアーリアの言うとおり、彼はとびきり変人なだけで、信用にあたいしないというわけではなさそうだ。


「……なんにせよ、いよいよ大詰おおづめだ。あそこが魔境につながってるんだな」


 佳果の視線の先。開いた門のなかに、ムンディが"玄関"と呼んだ空間が広がっている。赤い空には黒い雲が浮かび、地上にはちた木々がまばらに生えていた。


「楓也、気をつけてね」


 玄関とこの"はざま"は門で隔絶かくぜつされているからなのだろうか、そのおどろおどろしい様相を超感覚で見つめても特に恐怖は感じない。しかしヴェリスは先ほどのイレギュラーもあり、やや感傷かんしょう的になっていた。楓也が着ている服のすそつかみ、心配そうにうつむく彼女。


「大丈夫だよ。結界を壊したら、すぐに戻ってくるから」


 そう言って笑顔でヴェリスの頭をでた彼は、佳果に目配めくばせするとゆっくり歩き出した。一歩すすむたび、黒く、冷たく、どんどん低い波動になってゆく楓也の魂。それをていたノーストの心は、言いようのない感謝の念で満ちあふれた。たとえ演技とわかっていても、人がちてゆくさまのあたりにするのは胸をめ付けられる。


(……頼んだぞ、楓也よ)



 玄関へ出た楓也は、門を中心点としてドーム状のバリアが展開されているのを確認した。あれが結界であろう。


 ムンディいわく、破壊するには愛の光を当てる作業が必要となる。彼は結界に直接(さわ)れるところまで移動しようと思い立った。


(あと少しでミッションコンプリートだ。がんばろう)


 はやる気持ちにまかせて駆け足になる楓也。だが環境かんきょうの影響なのか、意に反してあまりスピードが出ない。


(あれ……なんだか身体が重いな……)


 それでも着実にを進め、彼はとうとう結界まで辿り着いた。青白い半透明はんとうめい障壁しょうへきに手を突っ込むと、空間が波立って貫通する。おそらくこの状態で魂の波動を元に戻せば、崩壊が始まるはずだ。


(……?)


 ふと、結界にうつる自分を認識する。そこには見慣れぬ姿があった。全身が暗いむらさき色で、人間大にんげんだいの虫のような異形いぎょうの者。


「う、うわぁ!!」


 楓也は思わず飛びのき、尻もちをつく。だが地面に衝突しょうとつする感覚に肉体特有のしなやかさはなく、かたくかわいた音が響きわたった。パニックにおちいるなか、不意に結界の外側から声が聞こえてくる。


「なにやってんだお前。どうして結界のなかにいる?」


「!?」


 気がつくと、そこにはリザードマンとおぼしき魔物が立っていた。彼は楓也をじろじろとめるように観察している。


「ん? よくるとお前……妙な魂をもっているな」


「え、えっと……?」


「…………なるほど。さては人間か」


「! どうしてわかったの」


「ふん、おれっちの目はごまかせないぜ。しかし気の毒だなぁお前も」


「へ?」


「……どうやら初めて来たようだし、特別に教えてやるよ。魔境(この地)では、身体はそいつの魂が反映された形をとるようにできている。お前は謎の技術でおれっち達と同じような姿をかぶっているようだが……早く戻さないと、こっちが現実(・・・・・・)になるぞ」


「!!」


 我にかえった楓也は慌てて魂の波動を高めようとする。ところが、まるで異形の身体がそれを拒否するかのごとく、一向いっこうに光が戻ってくる気配がない。


「そ、そんな……どうして……!」


「やっぱりもう手遅れか。誰の差しがねでこんなことさせられてんのか知らないけど、ご愁傷しゅうしょうさん」


「ッ……このままだと、ぼくはどうなっちゃうの?」


「そりゃ、身も心もこちら側の住人になるだけさ。ただこの結界があるから、誰もお前のそばには行ってやれないけどな」


 その言葉を聞いて、楓也は血の気が引いた顔で後方こうほうを振り返った。遠くにたたずむ門は朧気おぼろげである。きは近いと思った道のりも、今となっては果てしない距離に感じられる。


「こ、こんなところで……嫌だ……ぼくは結界をやぶってみんなのところへ…………なんで結界を破るんだっけ? ……誰が待っているんだっけ?」


 思考が侵食されてきている。しかしそれを認識することすら、もはやおぼつかなくなってきた。リザードマンは自我じがを失いかけている彼を見て、しぶい顔をする。


「……おい。もう少しだけ耐えられるか? 仕方しかたがないから、いま知り合いを呼んできてやるよ」


「知り……合い……?」


「ああ。そいつならあるいは、なんとかなるかも。元々はお前と同じ人間で――」


「トレチェイス? 誰とお話ししてるの?」


 刹那せつな、後ろからひどく懐かしい女性の声がした。タタタと駆け寄ってきたその人物は、朦朧もうろうとする楓也の意識を一気に引き戻すほど、よく見知った顔であった。


「お……押垂おしたりさん……!?」

第5話に登場した"アノマビー"もそうですが

現実に巨大な虫がいたら腰を抜かしそうです。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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