第136話 不遜
「ではみなさん、少々お待ちください」
全ての準備が整った陽だまりの風。
まずはアーリアが超ジャンプを行い、巨大な門に掛かっている錠へとタッチする。鍵穴のないそれは一瞬ひかると、粒子となって蒸発するように消えていった。無事に着地した彼女は、些か拍子抜けする。
「……本当に簡単でしたわね。文字通り鬼門になると思っていましたのに」
《そりゃ姉ちゃんだから言えるセリフだな。エリアⅨの魂なんて地球には5%もいないんだぜ? 茶も美味かったし……こんな人間と出会えたあんたらは運がいいよ》
「わ、ムンディさんのお墨付き! さすがはお姉さまです!」
「5%もいないって……やっぱすげーなアーリアさんは」
「う、うう……最近褒められてばかりで、なんだかこそばゆいですわ……」
紅潮するアーリア。そこへ追いうちをかけるように、にっこりと笑ったヴェリスとシムルが両脇で手をひらひらさせて彼女を煽てている。
平和な光景を眺めながら、楓也は冷静に分析を行った。
(ふむ。つまり押垂さんたちのパーティにもエリアⅨの人がいたわけか……確かに、フルーカさんや押垂さんってそういう雰囲気があったかも。チャロさんと波來さんは正直よくわからないけど)
いずれにしろ、陽だまりの風が目指すエリアⅩとはその5%よりもさらに向こう側の領域だ。果たして自分たちは、どれほど針に糸を通すような旅をしているのだろうか――事の難儀さを再認識した彼は、ひとり目を閉じて考えふけった。
《さーて、お次は佳果ボーイの番だぜ》
「おう。んじゃ行ってくるわ」
意気揚々と門に両手を伸ばす佳果。彼は力いっぱい押してみたが、いくら頑張っても扉はピクリとも動く気配がない。
「……なあ。まさかとは思うが、これ見た目どおりの重さだったりするのか?」
《あ~わるい。その門、攻撃力が一定以上じゃないと反応しないんだった》
「…………(じー)」
《まあそう熱い眼差しを送るなって。クールタイムはもう終わってるだろ? スキル使ってリトライしてみな》
「ったくウーのやつといい、そういうのは先に言えって。……サプレッション!」
悪態をつきながら黄金のオーラをまとった佳果は、今度こそと再び力を込める。すると扉が重低音とともに開きはじめ、中から黒いガスが漏れ出してきた。だがそれらは彼の魂に反応するや否や、轟音をともなって稲妻へと姿を変え、怒涛の収束を見せ始める。
「!? なんかすごい勢いだけど、兄ちゃん本当に大丈夫なのか!」
《ん……? そう言われるとやたら出力が高い気もするな。ちょっとやばいかも》
「えぇっ!? よ、佳果さん! 一回閉めてください~!」
零子が叫ぶも、佳果は微動だにしない。不測の事態を見かねたヴェリスは、彼を門から引き離すべく近づこうとするが、楓也に制止される。
「ヴェリス! あぶないよ!」
「でも佳果はもっと危ない! わたしが助ける!」
「あわわ……どうしましょう……」
「ならば吾が行こう」
アーリアとヴェリスを横を抜け、ノーストが佳果の救出に向かう。しかしムンディは、なぜかそれを阻止するように彼の前へ立ちはだかった。
「! なんのつもりだ」
《あんたがあのガスに触ったら全部パーだ。また一からやり直しになるぞ》
「なに……!?」
《仕方ない。この展開は本意じゃないし、いま俺様がなんとかして――》
「手出しは無用だよ、世界悪意殿」
不意に、聞き覚えのある声が響き渡った。
次の瞬間、佳果の背後に黒ずくめの人物が現れる。
「あ、あなたは……!!」
驚く楓也を一瞥するその男――波來明虎は、ひどく愉快そうに言った。
「これを引き受けるのに相応しい存在をつれてきた。因果応報……別に文句はないよねぇ?」
彼の横に漆黒の霧が召喚される。それはあの時、チャロが"邪魔そのもの"といってどこかへ送り出した外側の黒だった。
《……あんたには脱帽したよ。よもやこの領域にテレポートしてくるとは》
「馬鹿と鋏は使いようさ。それで、この場は任せてもらっても?」
《ま、上が絡んでいるとはいえ、そいつが違反したことに変わりはない。扱えるってんなら、あんたの好きにすればいいさ》
「フフフ、感謝しておくよ」
《相変わらず不遜な変人だ》
二人の問答にすっかり置いてけぼりを食らっている一同をよそに、半開きだった門を蹴飛ばして全開にする明虎。彼は倒れ込む佳果を念動力で楓也のもとへ飛ばすと、漆黒の霧とともに、ガスの稲妻を一手に引き受けた。
第113話ぶりです。
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