第6話 ともにあゆむ
「ア、アーリアさん!?」
三人は次の町『フリゴ』にて合流した。楓也はアーリアを見るなり、大変おどろいている様子だ。もしや知り合いなのだろうか。
「あなたが佳果さんのご友人ですわね。とってもかわいらしいアバター……素敵です!」
「そ、そんな……恐れ多いですよ!」
ウェーブを巻いたワインレッドのミディアムボブに、犬のような耳。黒を基調としたスタイリッシュなローブと、先端に虹色の珠がついたロッドを持っている彼――青波楓也のアバターは、顔や目は現実世界と同じであるものの、どう見ても女の子の風貌であった。
褒められて照れたのか、楓也は顔を赤らめながらモジモジしている。
「……なあ楓也。俺はどういう風にお前を見たらいいんだ?」
「あっごめんごめん! 説明してなかったけど、ぼく、オシャレが好きなんだよ。男性寄りにすると、やっぱりアレンジの幅が狭まっちゃうし……こうならざるを得ないというか」
「……まあ、人の趣味をとやかく言うつもりはねえけどよ。やりにくくなるのもアレだし、できればいつもと同じように接したいんだが」
「うん、それで問題ないよ! お気遣いありがとね。……それにしても、まさか阿岸君が選んだベラーターが、アーリアさんだったなんて」
「わたくしのことをご存知でして?」
「もちろんです! さすがにトッププレイヤーの名前を知らない人は少ないと思いますよ? それにアーリアさんの美的センスは、ぼくの一番の憧れですから!」
(……トッププレイヤーだぁ?)
「ふふっ、わたくしなどまだまだですわ。でも、知っていただけているのは光栄です。これからよろしくお願いしますね、……えーっと、なんとお呼びすれば?」
「あ、身内しかいないときは楓也で大丈夫です! それ以外は"もぷ太"でお願いします」
「わかりました。では楓也ちゃん、ともに佳果さんを導いてさしあげましょう!」
「わぁ、ちゃん付けというのも新鮮で嬉しいです! はい、がんばります!!」
なんだかんだで意気投合している二人。両手を繋ぎ、輪っかをつくって踊っている。導くとはどういう意味なのか、佳果は考えないことにした。
「……で、水さすようで悪いんだが。お前らに大事な話がある」
「え? あ、そうだった。阿岸君が相談なんて珍しいよね。どうしたの?」
「ここだと少し人通りが多いな。どっか静かに話せる場所はないか?」
「でしたら、鐘塔へ登りましょう。あそこは滅多に人が来ません」
◇
三人は町を一望できる高さの鐘塔へと登り、頂部についた。
吊り下がっている立派なベルを横目に、佳果は死んだ幼馴染の夕鈴、そしてこのゲームをプレイすることになった経緯、最初に出会ったAIなどについても、順を追ってすべて明かした。
アーリアは口を覆い隠し、ときおり驚いたり瞳をうるませたりしながら話を聞いていた。楓也も神妙な顔をして、彼の言葉をそしゃくしている。
「俺はあいつを救いたい。だが、純粋にゲームを楽しんでるお前たちにとってはぶっちゃけ関係ねー話だろうし、付き合う義理なんてどこにもねぇ」
「…………」
「加えてこの件、なんとなくやべぇニオイがするんだ……だからよ、できれば攻略情報は共有して欲しいが、行動自体は別にしたほうがいいと俺は考えている。それなら危険は及ばねーと思うし、お前らも納得して――」
「心外ですわね、佳果さん」
「……は?」
「そうだよ阿岸君のおたんこなす!」
「お、おたんこ……!? お前までなに言って……」
「ぼくは、君のことを親友だと思ってる! それに押垂さんだって大事な友達だったんだよ? ……関係ないとか、そんな寂しいこと言わないでよ」
(楓也……)
「わたくしは夕鈴さんのことを知りませんし、あなたとも今日出会ったばかりです。でも……この縁は、その子が繋いでくれたものなのでしょう? わたくし、あなたが選ぶと言ってくれた時、すごく嬉しかったのですわよ」
「け、けどよ……!」
「けどもへったくれもありませんの! いいですか佳果さん、パーティとは運命共同体! わたくしはすでに、あなたと旅路をゆく覚悟ができております」
「ぼくも、ずっと君へ恩返ししたいと思ってたんだ。あのとき、君が大切なものを守ってくれたように……今度は、ぼくが力になる番だよ!」
「お、おい……二人してなんつーくせぇセリフ吐きやがんだ……」
ぺーと舌を出しながら町並みのほうへ向き直る佳果。
だが彼は、こそばゆさの中にも心が熱くなる何かが芽生えているのを感じていた。
「うふふ、良いではありませんか。本心とは、飾ることができないものなのです」
「さあさあ阿岸君。ゲームクリアに向けて、さっそく作戦会議を始めよう!」
背中をぽんと叩かれた佳果は、「あっぶね! このやろ」と言って楓也にヘッドロックをかけた。じゃれ合う二人を見てアーリアがひとつ上品に笑うと、強い風が吹き抜けてゆく。旅の始まりを告げるかのごとく、鐘はごんごんと響き渡っていた。
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