第131話 存在意義
ムンディ=マリティアと名乗る魔神。なぜか彼を交えてシートに座り、さながら花見のごとく魔境へと続く門を見上げる陽だまりの風。奇妙な状況のなか、緑茶をすすったムンディは「ぷひゃぁ~!」と大袈裟なリアクションをした。かなり美味かったらしい。
《いや~、前に紅の茶をもらったときも思ったが、こんだけ良質なエネルギーがつくれるようになったんだよなぁ地球は。けっこうけっこう》
「いや紅茶って言えし。つーか何目線だよ……」
《神目線だが?》
佳果とムンディの掛け合いに脱力しつつ、楓也が尋ねた。
「あの、魔神様」
《ムンディでいいぞ。別に敬う筋合いもないだろ》
「……ではムンディさん。あなたは以前にも、こうして誰かと対話を?」
《ああ。あんときはガキンチョ二人とばあさんに、変人のパーティだったか》
(夕鈴ちゃん達のことですわね。やっぱり、皆さんも法界の箱舟を……)
アーリアが確信する。佳果にあの手紙を宛てた夕鈴は、過去にこの場面を経験していた。つまりこれはアスターソウル攻略の一環であると同時に、現実世界の救済にも関わる重要なイベント。しかし、ともすれば拭えない疑念がひとつ浮上する。ノーストは何かを察したような顔で確認した。
「――答えろ魔神。そやつらは、誰を魔境入りさせた?」
(あ……)
(た、たしかにノーストさんは、世界で唯一の魔人って言ってたもんな)
彼がその質問を持ち出したのも当然の成り行きである。ヴェリスとシムルは真剣な眼差しでムンディの返答を待った。すると胡座をかいている彼は、湯呑を踝まで下ろし、虚空を見つめて言う。
《……あんただよ》
瞬間、ノーストは目を剥いたが、すぐにゆっくりとまぶたを閉じて溜息をつく。理解の追いつかない零子は、沈黙する二人を交互に見遣って狼狽した。
「えっ、えっ……? どういうことですか?」
「簡単な話だ。粒子精霊のやつが言っていただろう? 吾には生まれる前の記憶がないとな」
「……俺もまだ全体像がみえて来ねーんだけどよ。つまりノーストさんが魔境入りするのはこれで二回目ってことか?」
「此奴が言うにはな」
「うーん……ムンディさん。ノーストさんたちは、初回の時も今と同じように飢餓の問題を抱えていたんでしょうか?」
《そうだ。要するにあんたら魔人や魔物は、一度は魔境に到達して安らぎを得た。けど再びエネルギーが枯渇した状態で、あっちの次元に放り出されたんだ。ガキンチョたちと出会った以降の記憶を、きれいさっぱり失くした状態でな》
一同に衝撃が走る。かつて夕鈴たちも、陰で世界を救っていたのだ。しかしそれ以上に、同じ苦しみを繰り返させられているノーストらの心中が察するに余りある。なぜそのような悲惨なループが発生したのだろうか。
《そうなった原因を語るにはまず、あんたらの存在について触れとく必要がある》
「吾らの?」
《ああ。知ってのとおり、魔獣ってのは生命から放たれる負の感情を依代に生まれてくる。でも負の感情ってやつはさ、毎日毎日、世界中でどんどん溜まってくわけよ。んである時、魔獣の誕生が追いつかなくなるタイミングがやってくる》
(誕生が追いつかない……? もしかして、魔獣の総数って決まってるのかな)
楓也が勘ぐるなか、ムンディは続けた。
《行き場を失い、膨れ上がった負の感情はやがて瘴気へと姿を変える。そして最終的にはより高次の存在――まあいわば俺様みたいな存在が活動するためのエネルギーに成り果てるわけだな》
「それと吾らに、一体どういった関係がある?」
《……魔神ってのは不便でさあ。そのエネルギーがないと役目を果たせないから世界に悪影響を与え続ける。なのに負の感情がでかくなり過ぎると、それはそれで生命が全滅して供給源がなくなっちまうんで……立場に相応しいやり方で、等しく好影響も齎さなきゃいけない》
「!?」
《とどのつまり。魔獣が上限に達した際、過多のエネルギーを使ってあんたらのような魔人や魔物を然るべき世界へ送り込んだり、手ずから色んな次元に干渉して生命にちょっかい出すのが俺様の役目。その目的はただひとつ――愛の光を誘発することだ》
魔があり続ける理由。
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