第129話 正体
「ヴェリス、挟み撃ちでいくぜ!」
「わかった!」
直後、マイオレムの効果により素早さが限界まで引き上げられたヴェリスが電光石火でドクロの横につき、シムルに先んじて乱打を繰り出した。すると一撃ごとに、標的を覆っているオーラのような黒いモヤが剥がれてゆく。
やがて締めの後ろ回し蹴りを受けたドクロは、ゾーン状態で待ち構えているシムルのもとへ吹き飛ばされた。彼はそのままボレーシュートをかますと思いきや、佳果に向かってこう叫ぶ。
「兄ちゃん! その場で全力のアッパーを頼む!」
「!? おう!」
既に着地を終えて体勢を整えていた佳果は、言われるがまま思い切り拳を振り上げた。刹那、ドクロを盾にしたシムルが目の前へ出現し、空振りするはずだった拳打が見事クリーンヒットする。どうやらぶっつけ本番で瞬間移動を成功させたらしく、彼はVサインをつくってニッコリと笑った。
こうして、陽だまりの風が織りなす連携攻撃によって墜落したドクロ。おそるおそる近くまで駆け寄ってみると、今はオーラが消えて完全に沈黙しているようである。警戒を怠らずに観察を続けるなか、横たわる巨大な頭蓋骨を見つめて佳果が言う。
「……こいつ、殴っても痛みがなかったな。魔獣と違って、磁石が反発する時みたいっつーか……なんか妙な手応えは感じたけどよ」
「わたくしもです。さっきまで揺らめいていた黒いモヤの影響でしょうか」
"痛みがなかった"という点だけを切り取ると、このドクロは魔獣と同じく尊厳を持たない存在と考えられる。しかし、それがあくまでも先刻のオーラに起因していたというならば話は別だ。楓也はあごに手を当てて考察した。
「……ねえシムル。フルーカさんは黒いモヤについて、人々が世界に溜め込んでいる負の感情だと説明していたんだよね?」
「ん、そうだよ。魔獣はそこから生まれてるとも言ってた」
「ふむ……つまりこの存在が纏っていたのは、魔獣になる前段階の――」
「いや、それは半分間違いだ」
つかつかとドクロに歩み寄り、険しい顔で楓也の推理を正すノースト。
「此奴が初手で放ってきた衝撃波。あれを浴びた途端、うぬらの頭上に闇の想念が浮かび上がった。吾は、そのエネルギーを取り込む此奴の卑劣な姿を目撃している。つまり纏っていた黒きオーラの出処は世界ではなく、うぬら自身だ。まあ、いずれ魔獣に成り得たという意味では同じことかもしれぬがな」
「な、なるほど。しかしそうなりますと、黒いモヤがなくなった今……このドクロはどういった存在と捉えるべきなんでしょう? ノーストさんは"根源たる存在"と表現していましたけど」
「……そうだな。例えるならば、全世界に生きとし生けるもの。そのすべてが放つ負の感情をかき集めたとしても、遠く及ばぬほどの莫大な魔を有する絶対的な存在といったところか」
「え……」
「此奴は高次の奥魔を統べる、純粋で底しれぬ悪意の権化――すなわち魔神だ」
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なお、かなりややこしいので補足いたしますと
黒いモヤ=人々による負の感情(想念)で、
外側の黒=進んだ魂が奥魔に侵食されたもの、です。
どちらも相対的な存在であちこちに蔓延っていますが
いっぽう今回のお話におけるドクロは
その両方の性質をもっている絶対的な存在です。
※奥魔については第98話~第99話に描写があります。