第128話 総力戦
ノーストの采配に従って楓也がフォルゲンを発動し、パーティ全体にバリアが生成される。ドクロに対しては攻撃魔法が飛んでゆくが、彼が言っていたとおり、直撃の瞬間とけるように無効化されてしまった。
いっぽう零子は現在かかっているバフと効果が重複しないよう、追加で様々な補助魔法を行使した。ただこうした能力向上もすべて、目の前の脅威が纏う魔のエネルギーから成り立っているという真実が、彼らに一抹の疑念を抱かせる。
(つまり、魔法ってあの存在がいなかったら使えないってことだよね)
(高次の奥魔……魔獣や魔物とも違うみたいですが、果たしてあれに"尊厳"はあるのでしょうか?)
二人が洞察を試みるなか、バフをふんだんに盛ったノーストは飛行してドクロに急接近する。刹那、不意に無数の攻撃魔法が前兆もなく彼を取り囲み、容赦のない不可避の収束が始まった。ひとつひとつが必殺レベルの威力を秘めていると思われる。
(同時にこれだけの魔法を……デタラメな奴め。だが俄然、転位魔法が無制限に使えると言っていた粒子精霊の言が腑に落ちた。まったく、"魔境に至れば"などと曖昧な言葉で煙に巻きおって……まあよい)
ノーストは不敵に笑うと、着弾よりも速くドクロからエネルギーを吸収する。魔人だからこそ可能な芸当――魔力が満ち溢れた彼は、転位魔法で死の包囲網から抜け出した。もっともユピレシアの無敵時間が残っていたため受けても特に問題はなかったのだが、爆煙による視認性の低下を避けたかたちだ。
(よし、減った分の魔力もすぐ補充できるな。これならば心置きなく大魔法も使えるというもの)
再びエネルギーの吸収を行いつつ、今度は高位の時空魔法を操って味方のバフ時間を延長するノースト。これにより残っていた無敵時間も十倍以上に引き伸ばされ、安全な立ち回りがしやすくなった。そして後続の佳果とアーリアに繋げるべく、空中でドクロの前に立ちはだかった彼は、右手を胸の前に突き出す。
「魔人の吾には不向きだが……よもや愛の光をつかう聖術が効かぬことはあるまい」
そう言って放たれた光線がドクロにヒットする。仰け反る反応が見られたことから、ひとまず有効打とみて間違いなかろう。ノーストは攻撃の軌道を悟られぬよう、死角から死角へと転位を繰り返し、徐々にドクロが後ろ向きになるよう誘導する。やがて思惑どおり背後をとった佳果たちに、彼は叫んだ。
「今だ! 武器を使わずに直接、会心撃を放て!」
「任せろ!」
「佳果さん、わたくしの肩につかまってください!」
既にサプレッションを発動して黄金のオーラに包まれている佳果をともなって、アーリアがド級の跳躍をおこないドクロの上をとる。彼女は「さあ、いってらっしゃいませ!」と佳果を勢いよく投げ飛ばした。重力も味方につけた彼は、そのまま強烈なパンチを標的に喰らわせる。
《グ……!》
凄まじい打撃音とともに、これまで静かだったドクロが唸った。予想に違わぬその結果に、ノーストがしたり顔で思考する。
(やはり愛の優勢な陽だまりの風ならば、直接攻撃が通るとみて問題なそうだ。だが奴はおそらく……倒すことのできない存在。まずは吾らを対話にふさわしい相手だと判断するまで削らなくては)
「こちらはおまけですわ!」
佳果に続いて華麗に踵落としを決めるアーリア。ドクロは立て続けに起こった衝撃によって地上に落ちてきた。すかさず、待機中のヴェリスとシムルが果敢に攻め込んでゆく。
なにげにフルメンバーの連携は初めてです。
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