第127話 根源
「あの先が魔境さ」
漆黒をバックにそびえ立つ門を見て、ウーが補足する。あの扉の向こう側にノーストたちの故郷がある――ようやく目的地をとらえた一行は、跳ねる鼓動を抑えながら厳戒態勢を敷いていた。なぜなら、この領域には先ほど精神攻撃をしかけてきた何者かが潜んでいる可能性もあるからである。
張り詰める空気のなか、ウーは続けた。
「でも錠が掛かってるでしょ? あれ、封印なんだ。解かないと先には進めない」
「封印……? どうやって解きゃいいんだよ」
「方法は至って簡単。つよい愛の光をもつ魂であれば、錠に触れるだけで解除できるよ。あなた達の場合はアーちゃんが適任かな」
「わかりましたわ」
「ただし錠に触れるためには、まず門番をなんとかしなきゃならないんだけどね」
「!? やっぱりなんか居やがんのか!」
「――吾輩に助言できるのはここまで。それじゃみんな、武運を祈ってるよ!」
「あ、おいウー!」
佳果の呼びかけに応じることなく、ウーが箱舟から全員をそっと排出する。そうしてたちまち舟ごと透けていった彼は、数秒後に視認できなくなってしまった。
異空間に放り出された陽だまりの風は、弾力のある霧状の足場に戸惑いつつも辺りを見回してみる。町で休憩したときと同じく、特に汚染物質が漂っている気配はなさそうだ。ここも、なんらかの加護で守られているのだろうか。
「ふむ、ひとまず魔法は使えるらしいな」
炎や雷の魔法を素振りをし、感触を確かめるノースト。次元は違えど、ここはアスターソウルの法則が適用されているらしい。楓也と零子も便乗して初級魔法を発動してみたが、これといった違和感はなく、むしろ威力が増しているように思えた。
(どこまでがゲームなのかわからなくなってきたよ……)
「……とかく、門へ近づかぬことには何も始まらん。ゆくぞ」
◇
先導するノーストの後ろに続き、閉ざされた門を目指す一行。数分ほど進むと、徐々に扉の質感もはっきり見えるようになってきた。あと少しで現場に到着だ。
――このまま何事も起きなければ。
誰もがそう思っていた、そのときである。唐突に、門の前で暗黒が集結してゆく。ほどなくして象られたのは巨大なドクロだった。そのあまりにも禍々しい気配は、依帖のお守りから這い出たあの存在ですら、月と鼈に思えるほど途方もない悪意に満ち溢れていた。一同は不意の戦慄を強いられる。
「!!」
一瞬の硬直を突くように昏き衝撃波がほとばしり、強烈な悪寒が全員を襲った。それはまるで悪夢を見ているときのごとく、増幅した感覚が底なしの恐怖に晒されているような切迫感をもたらす。同時に、直前に見せられたトラウマがより鮮明な映像として蘇り、各々の精神をぐらりと揺らした。
ノーストだけは目を見開いてドクロを睨みつけるいっぽう、他の面々は苦悶の表情で膝をついた。なかでも光を失った瞳で頭を抱え、うずくまるヴェリスは極めて深刻な状態に陥っている。
「……ぁ……ぁあ……」
ただでさえ惨たらしい不意打ちを超感覚で受けてしまった彼女は、今まさに狂気に染まろうとしていた。楓也、零子、シムルの三人は辛うじて耐え抜いたものの、小刻みに身体を震わせている。すぐに動けそうなのは佳果とアーリア、そしてノーストだけだ。
「くそっ先手を取られたか……アーリアさん、このまま畳みかけられるとかなりやべぇ!」
「ええ、出し惜しみしている場合ではなさそうですわね。ユピレシア!」
アーリアが固有スキルを発動し、パーティがあたたかな光に包まれる。間一髪、正気を取り戻してゆく陽だまりの風に向かってノーストが叫んだ。
「聞け! 奴の波動を浴びて確信した……アレはうぬらが"外側の黒"と呼ぶ高次の奥魔、それも根源たる存在だ! 攻撃魔法は奴のエネルギーを拠り所としているゆえ、無効化されるぞ! 零子と楓也は補助に徹しろ!」
「は、はい!」「承知しました!」
「佳果とアーリアは、吾が撹乱した隙に最大出力で物理攻撃を叩き込め! ユピレシアの無敵時間を無駄にするなよ!」
「おう!」「きついのをお見舞いしますわ!」
「小僧と娘は即刻、固有スキルを発動して備えておけ! 奴が少しでも怯んだら、そこへ乱打を仕掛けて気絶値を稼げ!」
「わかったぜ!」「ん!」
ラスボスみたいなのが出てきました。
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