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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第九章 切り拓かれた宿命 ~失われし記憶~
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第126話 トラウマ

 休憩を終え、再び太陽の雫で起動した法界ほっかいの箱舟。時間の止まった町の上を飛行して進んでゆくと、出口のゲートが見えてくる。そこを一気に通り抜けたところ、見覚えのある光景が目に入った。薄暗い鍾乳洞しょうにゅうどう――依帖えごと対峙した、あの京都の洞窟である。きつねにつままれた佳果と楓也は、思わずたじろいだ。


「!?」


「こいつは……」


「どうしたんですの、お二人とも?」


「……間違いねぇ。ここは俺らが、センコーとやり合った場所だ」


「!」


 彼らの表情が突如とつじょこわばった理由に、他の面々は押し黙る。しかし重くなった空気を払拭ふっしょくするかのごとく、ノーストが切り出した。


「ふん、なるほどな」


「ノースト?」


「粒子精霊は言っていた。『ここは現実世界の要素が無秩序に絡まっている』とな。そして天使が忠告していた"魔境()りには魂をおびやかすほどの危険がともなう"というげんに加え、このタイミングでうぬらの動揺どうようをさそう場所が出現したこと。察するに、の地を目前に控えた今……既にわれらは、()の攻撃を受けているのではないか?」


「て、敵だぁ? ……いや待てよ。そういえばさっき、第一関門とか言ってたよな。おいウー、もしかして」


「…………」


 佳果が問いかけるも、ウーは返答する気配がない。これについても秘匿ひとく事項、自分たちで考えろという意味なのだろうか。アーリアはおもむろに佳果と楓也の肩に手をおくと、少し低めのトーンで言った。


「……いずれにしましても、悪趣味なことですわね」


「なに、所詮しょせんは乗り越えた過去の爪痕つめあとであろう。うぬらならば、今さらこのような小細工こざいくおくれをとるほど軟弱ではあるまい。気をしっかり持て」


「……ノーストさん、おれたちを励ましてくれてる?」


無駄口むだぐちたたいているひまはないぞ。そら次が来た」


 シムルの気づきをノーストが一蹴いっしゅうした刹那せつな、辺りは殺風景さっぷうけいな荒野に変わった。あちこちにえた者たちが横たわっており――今度は生前のヴェリスが、最期さいごを迎えた場所に出たようだ。


「ここ、わたしの……」


 くもる表情とその言葉に、シムルは前世にゆかりのある土地だと即座に理解する。ためらわずヴェリスの手をつよく握った彼の手は、揺るぎない信念の熱を帯びていた。


「おれもお前も、今ここにいるだろ。だから心配はいらない」


「……うん」


 そうしているうち、また景色が変化する。

 深夜の病棟びょうとう、長い廊下ろうかのような空間を進んでゆく箱舟。しかし特に誰も反応している様子はなく、佳果が怪訝けげんな顔で疑問符を浮かべた。


「? どこだこりゃ」


「暗くてよくわからないけど、病院みたいだね」


「こちらも、どなたかの記憶に関係しているのでしょうか? 少なくとも前の二箇所はそういう感じだったようですけど……」


 零子のいうとおり、ここにきて誰とも無関係な場所に繋がったとは考えにくい。だが結局、明確な解答かいとうは得られぬまま次へと移動してしまった。そしてにわかに広がったのは一面の銀世界である。付近にはかまくらと池があり、積雪量から見て北国のようだ。


「これは……アーリアさんか?」


「いえ、わたくしではありませんわ。……先ほどから妙ですわね。てっきり、わたくしたちに精神負荷をかけているのかと思っておりましたが」


 そう毅然きぜんと語るアーリアであったが、顔色が少し青いように見えたのは光の加減によるものなのだろうか。ヴェリスがじっと彼女へ視線を向けるさなか、白銀は山々の深緑へと変わり、吊り橋が出現する。当然、驚かされたのは零子だ。舟の底面が透けているのも相まって、がくがくと足が震えてしまう。


「きゃっ……! や、やっぱり攻撃されてませんか! ちょっと安心させておいて、上げて落とす算段だったんですよきっと!」


「……らしいな。まったく忌々(いまいま)しい」


 吐き捨てるノーストの瞳に映っているのは、焼き払われた村から立ちのぼる黒煙だった。かつて、彼が恩人を失ったときの光景と思われる。


 こうして立て続けに嫌なものを見せられた一行いっこうは、最初にノーストから激励げきれいがあったぶん、それほど深刻なダメージは受けずに済んだものの――仲間たちが味わった過去の苦しみを推しはかり、消沈しょうちんせざるを得なかった。だがその陰鬱いんうつとした静寂は、だんまりを決め込んでいたウーによってやぶられる。


「……ついたよ」


 気づけば、舟は真っ黒な空間へと辿り着いていた。地面はドライアイスのごとく、白いもくもくがただよっている。視界の先にあるのはただ一つ、大きな門であった。

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