第125話 深まる謎
《……そなたらにとっての価値は、そこにあるのだな》
《もはや引き止める必要はなさそうですね。……粒子精霊どの。引き続き、彼らの行く末を見守ってあげてください》
「お任せあれ」
珍しく凛々しい声でウーがそう返すと、天使と八咫烏は満足そうに遠くへと飛び立ってゆく。どうやら、交渉はうまくいったようだ。
緊張の糸が切れた陽だまりの風は一度、休憩をはさむことにした。アーリアに自動調理で軽食とドリンクを生成してもらい、地面にシートを敷いて座り込む。
「しっかし迫力のある連中だったな」
「うん、心臓バクバクだったよ! でも、君が気圧されるなんて珍しいよね」
「あー、なんつーかさ。悪い意味で凄みのある奴とかは別に怖かねぇんだが……ああいうピリピリした、如何にもって感じの相手はあんま得意じゃなくてよ。思わず道場のじっちゃんを浮かべちまったぜ」
(阿岸君に奥義を教えてくれた人か。やっぱり厳しい師範だったのかな)
佳果と楓也の会話に、零子も同意する。
「あたしも自然に身体が震えちゃっていました。ウーちゃんと最初に出会った時は、そんな風にはならなかったのに……」
「どちらも厳格なお方でしたわよね。さしずめ、精霊様にもタイプがあるのでしょうか。ウーちゃんは粒子精霊ということですが……?」
アーリアが問いかける。ウーはここへ来る前、彼らを"お仲間"と表現していた。背負っている役目が違うとも言っていたが――そもそも粒子と冠しているか否かで、いったい何が異なるのだろう。天使と精霊の定義についてもあやふやだ。
「ヨッちゃんとフーちゃんには少し話したんだけどね、魂って前進するんだ。で、いずれ色んな存在に派生するタイミングがやってくる。天使も精霊もその派生先のひとつで、グループ的にはだいたい同じといっても差し支えないかな」
「……ちなみに、確か奥魔の制御に失敗して飲み込まれると"外側の黒"になるんだよね?」
楓也の補足に、彼は舟ごと首肯した。
「うん、でも制御に失敗しただけなら妖精とか聖獣になったりすることもあるよ。……まあそれは別にいっか」
(き、気になるなぁ)
「吾輩たちに共通する特徴としては、主様に仕える眷属って点が挙げられるね。さっきの天使も八咫烏も、それぞれ別の主様がいらっしゃるんだ。そして各主様のご意向によって役目は変わってくるし、纏うエネルギーの性質や雰囲気も違う。つまり吾輩に愛嬌があるのは、黒龍様の影響ってことさ♪」
佳果は精神世界で龍神と対話した、あの局面を思い出す。
「……たしかに口調は古風で話も小難しかったが、そのわりに抵抗感は全然なかった気がするな。それを愛嬌と言っていいのかは微妙なところだけどよ」
「へへっ! なんにせよ、あなた達は見事、第一関門を突破してみせたわけだ。ここを発てば、まもなく魔境の入り口に辿り着けるよ。以降はノンストップになるだろうから、今のうちに英気を養っておいてね」
「がってん承知だ」
そう言って、他愛もない話が始まるいっぽう。
ヴェリスとシムル、そしてノーストは考えごとをしていた。
(特異点……わたしたちのことだよね)
(ヴェリスは転生してきたって聞いたけど……おれはどうなんだろう)
(魂の派生、か。天使のやつは、天人と魔人を"人の子"で括っていたように感じたが――ならば吾は、そして魔物はなぜ存在するのだ?)
いつもお読みいただきまして
誠にありがとうございます。
よろしければブックマークまたは
下の★マークを1つでも押していただけますと
とても励みになります。