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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第九章 切り拓かれた宿命 ~失われし記憶~
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第124話 価値

「あ、あんたらは……」


 この尋常ならざる存在感。言わずもがな、この二者が天使と精霊なのであろう。つまり先ほど浴びせられた光線の雨は、事前の説明にあった"門前払い"に違いない。

 対策のおかげで撃墜げきついされずに済んだものの、佳果たちは彼らの荘厳そうごん高潔こうけつたたずまいに圧倒され、動けなくなっていた。しかしノーストはおくせず、一歩まえへと出る。


随分ずいぶんと手厚いもてなしではないか。危機管理の一環いっかんにせよ、少々過剰(かじょう)洗礼せんれいだとも思うがな」


 彼のげんに対し、がらすは町のゲートへまって返答した。


《この領域で何か間違いが起これば数多あまたの世界が壊れゆく――ゆえに手を抜くわけにはいかなかったのだ。それに、そなたらが資格を持っていなかった場合は元の世界へ強制送還(そうかん)となり、二度とこの地へ足を踏み入れられなくなっていただけのこと。先の邀撃ようげき殺生せっしょうの力はなく、あくまでふるいける意図があったのみ。容赦ようしゃされたし》


「ほう。では聞くが、その趣向……われが魔人であっても変わらぬのか?」


《魔人? ……失礼ですが、いったん舟の原動力を停止していただけませんか? 以降は話し合い以外の手段をもちいないと約束いたします。またこの領域は私どもの加護がございますので、汚染などの心配はありません》


 天使の要求を聞いて、佳果がウーに確認をとる。


「ああ言ってるが……太陽の雫、取っちまっても本当に平気かよ」


「うん。彼らから見ると、いま吾輩たちは全員同じ(・・)なんだ。建設的に話を進めるためにも、ここはエンジンを切っちゃったほうが得策だね」


「わかった」


 佳果がくぼみから太陽の雫を回収すると、浮かんでいた舟は重力を取り戻し、地面に落下しようとする。それを天使が片腕で支え、優しくおろしてくれた。


《ありがとうございます。しかし驚きました。人の子……それも天人てんにんや魔人、特異点に粒子精霊まで。なるほど、黒龍様の縁が深いようですね》


(!? ぼくらの魂から情報を読み取っているのか? というか、天人や特異点って一体……)


 楓也が冷や汗をかいてかんぐっていると、八咫烏も下に降りてきた。


《その疑念を抱くということは、さしずめ星魂せいこんが絡んでいるようだな》


「っ! ……あなたがたも、心が読めるんですね?」


《さよう。しかしそなたらがみちなかばなのは、今しがたの問答でよくわかった。察するに他所よそでも仔細しさいを伏せられ続け、さぞ辟易へきえきしているだろうが……われらもまた、話せることは多くなさそうだ。ちなみに先の魔人の質問に答えるならば、特に趣向は変わらない。そなたに限って(・・・・・・・)、ではあるがな》


「……ふん。光の勢力はこぞって崇高すうこうな理念に縛られているらしい。そう守秘義務ばかりでがんがらめにされていては、守れるものも守れなくなるのではないか」


《……恐れ入ります。しかし今は、さしあたり此度こたびの用件を詳しく聞かせていただけますか。可能であれば、そちらのお嬢さんから》


「わ、わたくしですの? ……かしこまりました」


 急な指名にアーリアは少し慌てたが、ひとつ咳払せきばらいをすると前で手を組み、真摯しんし経緯いきさつを語り始めた。現在アスターソウルの世界にて、魔物たちの飢餓きがによって未曾有みぞうの危機が迫っていること。それを解決するため、自分たち陽だまりの風はウーの協力を得て法界ほっかいの箱舟をつくり、ここまでやってきたこと。最終的な目標は魔境への到達であり、同時進行で魔除けの普及ふきゅう計画も進めていること。


 すべて聞き届けた天使と八咫烏は顔を見合わせ、小さくうなずいた。


あいかった。そのような事情がある以上は、ここを通すのもやぶさかではない》


「マジか! じゃあ……!」


《ただし》


 はやる佳果の言葉を、天使がさえぎる。


《最後に一つだけうかがわねばなりません。普及計画のほうは別として……現在あなたがたが成そうとしている魔境()りは、生命を、魂をおびやかすほどの危険をともなう極めて過酷な行為です。しかし多くの人々にとってそれは、知る由もない勇気の執行しっこう――仮にあなたがたが息絶えたとしても、世界はきっと無関心のまま流れゆくでしょう。また快挙を遂げたところで、そこに感謝はなく……英雄視されることもないでしょう》


《そなたらは何も得ず、世界は気づかぬうちに救われ、何事もなかったかのように日々を営むだけ。そこに己のすべてをす価値はあるのか? 大切な仲間を危険にさらしてまで、その道を歩む大義などあるのか?》


 天使の話を聞く限り、魔境には想像もつかないような波乱が待ち受けているのだろう。八咫烏の問いかけに、一同はうつむく。


《……思い直すなら今だぞ。退くも勇気、賢明けんめいな判断を――》


 瞬間、八咫烏は彼らの心が笑っていることに気づいた。当然、天使もその明るいエネルギーを感じ取っている。顔を上げた佳果は全員を見渡すと、ニカッとした表情で返答した。


「かか、あんたは何も得ないっつーけどよ。得るもんならあるぜ。どデカイのが」


《……と申すと?》


「みんなが好き勝手に生きてる世界が、ありのまま回り続ける。そりゃ良いことばっかじゃねぇだろうし、むしろ嫌なことのほうが多いかもしれねぇ……けどさ、それでも世界が回っててくれたから……俺たち陽だまりの風は、こうして出会うことができたんだ」


《…………》


「大義とかは関係ねぇ。俺たちはただ、俺たちが家族であるために突っ走っていたらここまで来てたってだけの話だ。それ以上に大切なことなんて別に思いつかねーぜ? だから、なんだぁその。俺たちの進む道の先に、代わり映えのしねぇ世界があるってんならよ……そんだけでチャンスとか色々、十分じゅうぶんすぎるくらい"もらってる"ってこった! よって退く理由もねぇ! だろ!?」


 振り向きざまにそう言ってのけた佳果は、少し恥ずかしげに頭をかいた。

 つたない言葉のなかにも垣間かいま見えた彼の本心に、一同は深く頷き、目を細める。

 天使と精霊は、そのきずなを答えとしてとらえるのだった。

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