第123話 初見殺し
その後、一同を乗せた法界の箱舟は無事に瘴気が充満する領域を抜け、例によって"晴れる瞬間"が訪れた。周囲には青々とした竹林が出現し、ウーが外面を透過モードにすると、全員がその様子を壁越しに確かめる。思いのほか親しみのある景色に、佳果は混乱した。
「竹……? 俺たちって今、次元のはざまを進んでるんだよな? 普通にその辺でも見かけるような雰囲気だが……」
「ここは現実世界の要素が無秩序に絡まっているからね。ほら、こうして進むと」
竹林のなかにあった池へと入ってゆく舟。じゃぼんと飛沫を上げて沈み込んだ先には、なんと火山地帯が広がっていた。同じ要領でマグマへ突入すると、今度は雲海の上を飛んでいる。楓也は興味深そうに、あごに手を当てて言った。
「"そうはならない"の連続って感じだね」
「ああ、常識がまるで通じねぇぞ……」
「――さあみんな! そろそろだよ」
進行方向の上空に、町が浮かんでいる。ウーによれば、あそこへ辿り着いた際に天使と精霊がやってくるらしい。なお先ほど聞いた"交渉"が何を意味するのかは案の定伏せられてしまったため、ぶっつけ本番で乗り切らなければならない。
固唾を飲んで入口に到着すると、まず気づくことがあった。町には人や動物らしき存在が散見されるが、そのいずれもが停止しているのだ。噴水も焚き火も、切り取られた写真のごとく同じかたちを保ったまま。
時の流れを失ったその光景はあまりにも異様で、自分たちが世界から隔離されてしまったかのような錯覚と不気味さが襲ってくる。酷く歪な静寂に包まれた一同は、沈黙のなか来たる存在を待ち構えた。
「! お気をつけください!」
アーリアの一声で場に緊張が走る。
ノーストは、向かって左の方角から放たれたエネルギーに気づき声を荒らげた。
「粒子精霊、六秒後に波状攻撃が来るぞ! あれには耐えられるのか!?」
「大丈夫! そのための夜の水月さ」
ノーストの剣幕にヴェリスやシムルはあわあわと戦いたが、ウーが落ち着いた声色で肯定したのを聞き、土壇場で覚悟が決まる。
まもなく金色と青色のビームが舟へ到達し、断続的に轟音が鳴り響いた。その熾烈なエネルギーは舟の内部にも貫通し、一同は閃光に視界を奪われ続ける。しかしすぐに夜の水月から闇の氾濫が始まり、怒涛の勢いで白を飲み込んでゆく。
やがて静けさを取り戻した頃、佳果は恐る恐る目を開けてみた。
「!」
舟も仲間も無事だった。
彼はホッと胸をなでおろすと、攻撃が飛んできた方を確認すべく壁に近づく。ところがその瞬間、死角から信じがたい存在が現れた。翼の生えた麗人と、足の三本ある巨大な黒鳥――八咫烏である。
《……どうやら"資格持ち"のようですね》
《ならば問うとしよう。干渉者たちよ、何用でここへ至った》
勘の良いかたはお気づきかもしれませんが、
筆者は某ゲームのナンバリングで5が好きなクチです。
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