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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第九章 切り拓かれた宿命 ~失われし記憶~
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第122話 プカプカすいすい

 佳果はふところから太陽の雫を取り出し、くぼみにめ込んでみた。刹那せつな、フィラクタリウムと夜の水月から波紋はもんが広がり、箱舟はこぶね内の重力が消失する。にわかに宙へ投げ出された佳果と楓也は、初めて味わう浮遊感につよいたかぶりをおぼえた。


「おお!? 俺たち飛んでるぜ!?」


「あはは、すごいね! まさか宇宙みたいな体験ができるなんて!」


 年相応としそうおうにはしゃぐ二人に、シムルがニヤリと笑う。


「……ま、おれたちは滝で体験済みだけどな」


「二人とも、まだまだこどもだね」


 ウーに空中を転がしてもらった場面を思い出し、ちょっぴり大人おとな気取きどりのヴェリスとシムル。と言いつつも、楽しそうにじゃれ合う佳果たちに感化された二人は結局、誘惑ゆうわくに負けて輪の中へと入っていった。互いにタックルやかべりを繰り返して遊ぶ彼らに、ノーストは溜息ためいき混じりで苦言をていする。


「まったく。仮にも危険な場所へ向かっているというのに、たるみ過ぎではないか? 立場上つよくは言えぬが、この調子では――」


「まあまあ、そうおかた引率いんそつの先生みたいなことをおっしゃらずに。普段から飛べるあなたからすればせんないことかもしれませんけれど……わたくしたち人間にとってこれは、得難えがたい鮮烈な体験なんですの!」


「わぁぁ、無重力ってこんな感じなんですねっ! ん~~毎日このまま寝られたら腰痛も改善していいのになぁ!」


「う、うぬらもか……」


 舞い踊るアーリアと、脱力して揺蕩たゆたう零子の顔はゆるみきっている。多勢たぜい無勢ぶぜい、彼女たちすらそちら側なら致し方あるまい。ノーストは不本意ながら目をつむって腕を組み、己の説得を試みた。


(確かに、われにとって色褪いろあせた光景であろうとも……他者には彩度の高い絶景にうつることもあるだろう。ここは水を差さず、此奴こやつらを尊重して――)


「あ、ノーストさん角かりるぜ!」


「ぬっ!?」


 吹き飛ばされてきたシムルが、彼の角を握ってUターンを行う。アクロバティックに戦場へと戻ってゆく小さな背中を見て、ノーストは前言を撤回(てっかい)した。これは少々説教が必要だ。


「おい、そこに直れおろか者ども!」


「わーノーストが怒った」


「やべ、逃げろ~」


 シムルのあとに続き、ヴェリスも笑顔で逃げ回る。彼女は依然として、超感覚の制御中でないと外側の黒に対する恐怖を克服することはできない。しかしノーストから放たれるその波動に限っては、すっかり慣れてしまったらしく――直近は一定の距離をたもつこともなくなっていた。

 プカプカすいすいとせわしない陽だまりの風。さながらアクアリウムの様相である。


(にぎやかだな~)


 皆の表情をつまみに、法界ほっかいの箱舟となったウーは現在"はざま"を移動中だ。付近には瘴気しょうきと思われる粒子が充満しており、既に危険ゾーンに入っている。不意に、ウーの顔が描かれた面に佳果が近寄ってきて、耳打ちした。


「なあ。この舟、もう魔境に向かって動いてるんだよな?」


「うん、絶賛飛行中だよ~」


「外はどんな感じなんだ」


「……壁を透過して見せることもできるけど、それをやっちゃうとみんなの精神が心配。ヨッちゃんやアーちゃんの精神力(MND)でも、たぶん相当キツイと思うよ」


「見ただけで? 瘴気ってそんなにやべぇもんなのか……」


「とりあえず、この地帯を抜けたら声をかけるからさ。それまでこっちのことは気にせず、今を楽しんでおいで!」


「わかった。任せっきりでなんかすまねぇな」


「へへ! 精霊と天使が出てきたら交渉がんばってもらうし、お相子あいこだよ」


「そうか…………ん? 交渉?」

ウーさんはいつも言葉足らず。


※いつもお読みいただきまして

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