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第5話 痛み

 アーリアとパーティを組むことになった佳果は、装備を更新するためショップへと向かった。国の支援金は彼女がウィンドウ画面から正式な申請を出すと、即座に支給された。こうしてみすぼらしかった彼は、トントン拍子で比較的まともな格好へと生まれ変わる。


「恩に着るぜ、アーリアさん」


「どういたしまして。AGIが伸びるように選びましたから、これで最低限は動けるようになったはずです」


「ああ、おかげで身体が軽い」


 シャドーボクシングをして変化を確かめる佳果。チュートリアルでは(ぞく)の男たちに不覚をとったが、おそらく今ならスキルなしでもそこそこ渡り合えるだろう。なお、剣などの武器はまだ入手できる段階ではないらしく、換装したのは防具類のみだ。


「んで、こっからはレベルを上げるわけだな」


「ええ。肩慣らしもかねて、さっそく一戦交えるのもよいでしょう」


「何と戦うんだ?」


「"モンスター"ですわ。わたくしについてきてください」



 アーリアを追って町を出ると、広大な草原が広がっていた。そこには見たことのない生物――モンスターがたくさん生息している。その中から、アーリアは(はち)の形をしたものを標的に定めた。


「佳果さん、まずはあれを倒してみてくださる?」


「あの、すんげー羽音のでかいやつか……」


「ええ。"アノマビー"というモンスターです」


「……結構強そうに見えるけどよ。しょっぱな挑んで大丈夫なのか?」


「少し苦戦を強いられるかもしれませんが、わたくしの見立てでは、あなたなら敵うと思います」


「まあ、相手にとって不足はねえか。……行ってくる!」


 駆け出した佳果が、勢いよく先制攻撃をしかける。アノマビーは当たる寸前で彼に気づき、高速移動によって拳をかわした。そのまま旋回し、針で反撃してくる。


(さすが蜂だな、かなり速い……だが)


 幸い、敵の攻撃は並の動体視力があれば誰でもよけられるほど直線的で、わかりやすい予備動作を伴っていた。佳果は初見でそれを看破(かんぱ)し、難なくカウンターを回避する。


「お見事ですわ!」


「これくらいなら余裕だぜ!」


 とはいえ、こちらから攻撃を当てることができなければ、永遠に決着はつかない。初手の不意打ちがかわされた手前、確実にダメージをいれられるタイミングは限られるだろう。


(? あいつ、はずしてから襲ってこないぞ。……ははーん、そういうことか)


 再び彼がパンチを繰り出すと、やはりアノマビーは高速移動でよけた上で、カウンターの体勢に入った。そしてさっきと同じ要領で、針を向けて飛んでくる。それを今度は紙一重(・・・)で見切った佳果が、反撃の反撃を行った。


「そらよっ!」


 胴体にキックが入り、墜落したアノマビーは粒子となって蒸発してゆく。

 初戦を勝ち星で終えた佳果は、ふうと一息ついてアーリアの元へ戻った。針をギリギリまでひきつけた代償として、彼の腕にはかすり傷ができている。


「格上を相手に、素晴らしい善戦でした」


「いやダメだな。対処法がわかったところで、痛み分けにされてちゃ世話はない」


「まあ! ストイックなお方ですこと」


「つっても、実際には痛くないんだけどな……なあ、ちょっと聞いてもいいか」


「はい、なんでしょう?」


「痛みのある傷と、ない傷があるのはなんでなんだ?」


「……え? 佳果さん、戦闘はこれが初めてのはずですわよね? どうしてそんな……」


「どうしてってそりゃ――」


 彼はチュートリアルで起こった出来事についてアーリアに話した。途中までは興味深そうに話を聞いていた彼女だったが、徐々に深刻な表情になってゆくのがわかる。


「そうでしたのね……よくご無事でいらっしゃって……」


「? あの時はよくわかってなかったが、チュートリアルってのは要するに、お試しイベントなんだろ? 結局あいつらも今のモンスターと同じで、データ上の――」


「いいえ。あなたが出くわした方々はプレイヤーですわ。このゲームは、モンスターや架空のキャラクターによる攻撃については痛みを伴わない。でも、プレイヤー同士の場合は話が別です」


「!?」


「アスターソウルは規約上、プレイヤー間の戦闘をご法度(はっと)としています。だからなのかはわかりませんが、万が一いさかいが生じた際は、痛覚がはたらくよう設計されているのです。もっとも、一定以上の痛みにはならないよう、現実世界と比べれば緩和されているようですが……」


「マジか…………その、あんま聞きたくねーんだけどよ。"殺し"とかはどうなってる?」


「あくまで噂なのですけれども、加害者は問答無用でアカウントを永久凍結され、現実世界でも何らかの制裁が加えられるとか。被害者は致命傷を負わされた瞬間、システム側が強制的にログイン状態を切断して、脳を負担から守るそうですわね」


「つまり、プレイヤー同士でやり合うメリットは一つもないわけか」


「はい。……ですのに、あなたのお話にはまるで、それがあらかじめ仕組まれていたかのような節があります。チュートリアルの内容は人によって微妙に違うのですが、少なくともわたくしはそのような展開……今まで聞いたことがありません」


 佳果の脳裏(のうり)に、夕鈴――AIがよぎる。彼女は確か、チュートリアルを"ちゃんと受けろ"と言っていた。見当違いの可能性もあるが、あるいは。


(アーリアさんは俺が選んだパーティなんだし、ぜんぶ話しておくべきだろうな)


「……佳果さん?」


「すまねぇ。折り入って相談がある」


「相談、ですか」


「おう……でよ。実は今日、こっちで高校のダチと会う約束してんだ。もう町から出たあとだし、合流できるタイミングだと思うんだが……そいつも含めて、色々と聞いてもらっていいか?」


「なるほど。わたくしは一向に構いませんわ」


「サンキュー」


 お礼を言うと、ちょうど楓也から「ログインしたよ」というメッセージが入った。二人は彼と会うべく、次の町へと足を運んだ。

なぜわざわざ痛覚が設定されているのか……?

ひどい頭痛の時とか、現実でもそう思うことってありますよね。


なおこの辺りのお話につきましては

第六章で掘り下げがあります(またまた遠い)。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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