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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第八章 影のなかで ~救い、救われし関係~
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第121話 エンジンキー

 零子の気持ちをんで、佳果が質問を重ねる。

 ウーは少し、しゅんとした雰囲気で答えた。


「ごめんね~。あのときのヨッちゃんは、無の状態で能動的に魂の信号を発してもらえたから座標を特定できたんだけど……マーちゃんは吾輩たちのこと知らないだろうし、繋がるのは無理だと思う」


「む……じゃ、事故のあった山へ俺が訪れて、零気れいきを使うのはどうだ? そうすりゃ本人と繋がれなくても、おおよその場所自体(じたい)はわかるだろ」


「うん。でもね、マーちゃんの魂が本当にとらわれているのだとしたら……結局、その周辺にはいないはずだよ」


「なんで」


「肉体を失った魂は通常、一定時間が経過するとあるべき場所にかえってゆくんだ。けれど状況によっては死んだ場所にとどまり続けたり、どこか遠くへ行っちゃったりすることもある。今回レイちゃんの言っていた顛末てんまつを聞く限り……マーちゃんは後者の可能性が極めて高いからね」


「彼はもうあの山にはいない、ということですか? なら一体どこへ……」


 零子が胸の前で両手の指をからめ、不安そうな表情を浮かべる。ウーは元の粒子状に戻って彼女を優しく包み込むと、補足を行った。


「あなたの手をはじいたという黒いきり――それがもし奥魔おうまだったとしたら、まったく別の次元にいると考えたほうがいいかも」


「別の次元……?」


「そそ。といっても現段階ではまだ憶測おくそくの域を出ないし……諸々(もろもろ)の確認も兼ねて、ヨッちゃんが出張するのは吾輩も賛成! その時は零気を通して、痕跡こんせきとか詳しく調べてあげるよ」


「! 本当ですか!」


 一転して笑顔を取り戻す零子。これで彼女は、大きく前へ進むことができるかもしれない。佳果も満足気まんぞくげうなずいた。


「よかったな零子さん。そしたら後で、日取ひどりを決めるとするか」


「ええ、ありがとうございます佳果さん!」


「はーい先生」


「ん、なんだよアーリアさん」


「その際なんですが、わたくしも同伴してはダメでしょうか」


「へっ? お姉さまも来てくださるのですか!」


「もちろん! こう見えて佳果さんはまだ高校生ですから……実質、保護者として連れ立つかたちになりますわね。楓也ちゃんもいかがでしょう? 旅費はわたくしが持ちますわ」


「そ、それはさすがに悪い気が……」


「うふふ、遠慮しないでください。いい機会ですし、みんなで顔合わせできたらとっても嬉しいのですけれど」


 こうしてアーリアの厚意により、最終的に四人は後日、現実世界でオフ会をする約束を取りつけた。シムルが頭の後ろで手を組み、残念そうにこぼす。


「ちぇー、おれも行きたかったなぁ」


「こらシムル、駄々(だだ)をこねても仕方ないでしょう?」


「そうだけどさ、母ちゃんだって気になるだろ? 向こうの世界のこと」


「う、それは……」


「……大丈夫。わたしたちには、おばあちゃんに貰ったこの勲章くんしょうがあるから」


 おもむろにヴェリスがアスター王国の勲章を取り出す。確かにこれさえあれば、同行できずとも佳果たちの見ている景色を鮮明に共有することが可能だ。「その手があったか!」と喜ぶシムルの横で、ナノは物珍しそうに勲章を見つめていた。


「よし。ともあれ、これで後顧こうこうれいはなくなったわけだね? じゃあそろそろ魔境に向かおうか!」



 近くの荒野まで来た一同は、法界ほっかいの箱舟をつくり始める。

 まずはウーが立方体の巨大な箱に変化へんげした。各面には不可思議な模様や文字が見受けられるが、一面だけÜのままである。佳果は彼の呑気のんきな顔を見上げつつ、手順に従って設計図を"使用"する。


「……? 何も起きね―ぞ」


「内側が変わったよ~。さっそく乗ってみて」


 ウーの口がひっくり返り、∩のかたちになって横にひらく。どうやらここから中へ入れるらしい。「いやどんな仕組みだよ」とつっこむ佳果に続いて、全員が乗船する。内部はたいへんシンプルで、左右に台座が二つと、中央奥に謎のくぼみがあるだけだ。


「とりあえず、台座にはフィラクタリウムと夜の水月をセットすりゃいいんだよな」


「だね。じゃあさっそく、水月はこっちにめてと……外のフィラクタリウムは、悪いんだけどシムル、またお願いできる?」


「任せてくれ」


 楓也の言葉に張り切るシムル。鉱物を扱う際の佳果たちはやはり現実世界の身体能力が適用されてしまう仕様のようで、その影響がない彼の存在は非常にありがたい。軽々と運び入れられた荷台から、そびえ立つようなフィラクタリウムが無事、台座へとろされる。これで完了かと思いきや、ウーが注文をつけた。


「あ、ほんの少しだけフィラクタリウムのエネルギーが強いかな。夜の水月とのパワーバランスが大事だから、シーちゃんちょっとずつけずってみて~」


「あいよっと」


 指示に従ってシムルが丁寧に微調整を繰り返すと、徐々に均衡きんこうがとれてゆく。やがてウーのOKが出た瞬間、一同は周りの空気がみわたるのを感じた。同時に、なぜかノスタルジックな気持ちが込み上げてくる。


「今、吾輩たちはどっちつかずの存在になったんだ。これぞ原点回帰だね」


「原点……? どういう意味でしょう」


「やめておけ。此奴こやつが妙な示唆しさをしたときは、追及しようともはぐらかされると相場が決まっているからな」


 呆れ顔でさとすノーストに、零子は苦笑した。

 それをよそに、ウーの最終アナウンスが鳴り響く。


「さーて、これで次元じげんかんの行きができるようになった! あとはエンジンの起動だけ――ヨッちゃん、いっちょキーの差し込みをよろしく頼むよ~!」


「!?」


「……ウー、佳果こまってるよ」


「エンジンキーが必要ですの……? わたくしたち、そのようなものは手に入れておりませんが……」


「へへっ! くぼみの形に見覚えはない?」


「……あの真ん中にあるやつだよな」


 佳果がすたすたと近づいてゆく。はたして、キーの正体が判明した。


「なるほど。"太陽の雫"を使うわけか」

昨今ではわりと普通に耳にするようになったオフ会ですが、

筆者も過去、創作仲間で集まる機会が何度かありました。

初対面なのに知っているという独特の感覚……面白かったですね。


※いつもお読みいただきまして

 誠にありがとうございます。

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