第118話 気の置けない場所まで
翌日、ラムスの村の広場にて。
再び一堂に会した陽だまりの風は、アーリアのつくった料理が並ぶロングテーブルに向かって着座し、食事をしながらそれぞれの成果について話し合っていた。
佳果と楓也が得た"真の勇気"や龍神の出現に関するところから始まり、アスター城で議論されたフィラクタリウム普及計画の如何 、およびヴェリスが"世界の光で"チャロと邂逅し、夢を介した言葉の伝達が可能であると発覚した件。またシムルが瞬間移動と念話の足がかりを得たことや、アーリアと零子の"加工"熟練度が順調に上がっている経過など、一通りの情報共有がなされる。
佳果は切り分けたステーキを頬張りつつ言った。
「色々ありすぎて正直キャパオーバーだが……ひとまず、全部うまくいってるってことでいいんだよな?」
「うん。普及計画のほうは、もう少し煮詰めれば当初の予定よりもかなり早い段階で実行に移せると思うよ。これで懸念材料も減ったし、一層ノーストさん達の魔境入りに集中できるね」
楓也が近くの石垣に腰掛けているノーストを見遣る。彼は湯呑の茶柱をつついて、丸い水面に映る自らを波立たせながら答えた。
「其処な粒子精霊によれば、魔境とは吾らが本来住まうべき故郷。魔のエネルギーが豊潤な次元であるがゆえ、辿り着けさえすれば二度と飢えに翻弄されることはなく、それ以降は無為に人間を脅かす心配もないという。……既に魔物らには経緯を説明してある。此度は手間をかけてすまぬが、どうかよろしく頼む」
ためらわずに頭を下げるノースト。どこか東使拓幸を思わせるその殊勝さに、佳果と楓也は顔を見合わせて小さく笑った。さなか、シムルが素朴な疑問を口にする。
「ノーストさん。ちなみに、魔物たちはどうやって移動させるの?」
「ああ、転位魔法を利用するつもりだ。今の吾は長きにわたる消耗の影響で、それを行使するのに必要な分の魔力を持ち合わせていないが……魔境に至れば即座に全快し、実質的に無制限で使えるようになるとも聞いている」
「え、ノーストさんって転位魔法が使えるんですか!?」
「うひゃ~、さすがは280レベルですね……」
楓也と零子がたいそう驚いている。魔法に詳しい二人いわく、転位魔法を行使するためには規格外の知力が必要のため、未だに習得できたプレイヤーは現れていないのだとか。いわば伝説級として扱われている魔法であり――その効果は、一度訪れたことのある場所にグループ単位で多人数をワープさせられる代物らしい。
「はぇーそんなのもあるんだな……兄ちゃんたちの話を聞く限り、今回おれが明虎さんから教えてもらった瞬間移動とはちょっと違うみたいだけど」
「まあ実際に力の出どころが違うしにゃあ。どちらも一長一短、使い分けが大事ってところだにゃ~」
「? 出どころ??」
含みのある言い方で、横から割り入ってくるウー。再び猫の姿を象った彼は、「そんにゃことより」とシムルの問いかけを華麗にスルーし、露骨に話題転換を行った。
「レイちゃんたち、大事な話があるんでしょ?」
「え? あ……そ、そうですね。昨日、佳果さんは今回の件が落ち着いたら腹を割ってお話ししよう、と言ってくださったと思うのですが……」
「確かに言ったな。……だがその様子だと、今のほうが良い感じか?」
「……ええ」
零子は憑き物が落ちたような表情でそう言った。横に座っているアーリアとナノの様子から察するに、昨日何かあったのだろう。佳果はナイフとフォークを皿に置くと、グビグビと水を飲んでから畏まった。
「よし。丁度みんな揃ってることだし……この場で全部ぶっちゃけておくとするか。アーリアさん、どっちから先に話すほうがいい?」
「そうですわね――陽だまりの風を先にしましょうか。零子ちゃんもきっと、そのほうが前向きになれると思いますから」
「わかった。んじゃ早速……俺たちが旅している目的について話すぜ」
最近、煎茶を飲む機会が
めっくり減ってしまいました。好物なんですけどね。
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