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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第八章 影のなかで ~救い、救われし関係~
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第114話 決着

 ――それからしばらくして。

 再びフィラクタリウム普及計画についての会議が始まり、シムルとヴェリスはまず大人たちの考えを聞くべく様子ようすに入る。最初に切り出したのは、ゼイアとプリーヴだった。


旦那だんなといろいろ話し合ってみたんだけどよお。搬入の件は、どうしたって運ぶためのれ物と輸送の手段が必要になるだろ? だが既存きそんのものでまかなうのは正直、無理があると思うぜ」


「こちらの世界は荷車こそあれど、原動力は人や馬に限られますからな。他にこれといった移動の手立てもございませぬゆえ」


「やはりそうなりますか……」


 サブリナの表情がくもる。彼女はこの国において、最も魔獣との戦いを多く経験している特殊部隊の筆頭だ。陽だまりの風やノーストらから事情を直接聞いていることも相まって、本計画の重要性は誰よりも把握している。それだけに、難儀な現状に対する歯がゆさは人一倍つよかった。

 ところが、プリーヴは人差し指を立てて「そこでなのですが」と話を続けた。


手前てまえは以前、プレイヤーのかたから"現実世界いせかいには自動車がある"と伺ったことがあります。なんでも荷車の数倍スピードがあり、大型のものになると積載量もはなはだ多いのだとか。もしそういったあちら側の技術を流用できるならば、話は大きく変わってくるかと存じますが……いかがでしょうか」


 彼らの意見はつまるところ、技術を輸入し、貨物車をつくるところから始めようというものだ。これを聞いたフルーカは、申し訳なさそうに返答する。


「なるほど。先立つものとして、革新的な移動方法が必須という見方みかたはごもっともですね。しかし……実際には難しいかと」


「な、なぜですかい女王様!」


「それは……大前提として、両世界には致命的な差異があるからです」


「差異、と申しますと?」


「まず、使える資源の種類や性質、絶対量がまるで異なっております。向こうでは簡単に調達できる素材でも、こちらでは滅多に手に入らないことがある……そして何より問題なのは、物理法則の違い。仮に技術を持ち込めたとしても、安全面を考慮してこちらの環境に適応させたものを形にするのは至難のわざです。実現できないと断言するわけではありませんが、成就に途方もない時間を要するのは間違いないでしょう」


「なんと! 双方にそれほど抜本的な隔たりがあったとは……」


 早々に案がボツになり項垂うなだれるゼイアとプリーヴ。

 隔たりについてかんづいていたシムルは俄然、複雑な気持ちになる。


(おれが兄ちゃんたちに感じてる壁って、こういう部分にも起因しているのかもしれないな)


 前世の記憶があるヴェリスは除くにしろ、シムルを含め、これまでNPCとして生きてきた彼らにとっては現実世界など、およそ想像の及ばぬ場所なのである。


 可能ならば文化の違いを共有し、お互い長所を取り入れあって発展していければ生産的なのだが――それにはおそらく、ウーが秘匿ひとくしていた次元にまつわる情報の理解が必要になってくるのだろう。今はいったんあきめる他にないと悟ったシムルは、ここで話の流れを変える決意をした。


「みんな。……おれとヴェリスなら、なんとかできるかもしれない」


「ほぇ? シムルお前、さっきまで寝てたくせしていきなりなに言い出すんだよ?」


「そ、その前に色々とやってたんだって! なあヴェリス!」


「うん、がんばってきた」


「ほう……ここで若き英雄たちの登場ですか。して、一体どのような方法が?」


「ああ、実は――」


 シムルはまず、自身が瞬間移動を駆使して搬入を請け負うむねを説明した。今はまだテントーマの効果時間である15分のなかでゾーンに入らなければならないという縛りはあるものの、文字通り一瞬で各地へ行って帰ってこれるわけで、これにまさる輸送手段は目下もっか存在しないはずである。


 次に、ヴェリスが夢を介して世界中の人々へ魔除けの頒布(はんぷ)情報をアナウンスできる旨を説明した。徹夜てつやしている人には伝達が遅れる可能性もあると予想されるが、それはあくまでも誤差の範囲。ほぼ同時期に出張所の位置や日時などの詳細が広まることで、懸念けねんされていた悪徳の横行もかなり抑止できるという見解だ。


 こどもたちによる思いがけないトンデモ話を聞いて、一同はあんぐりとしていた。だがフルーカだけは、その裏でかつての仲間たちが手引きしていることに気づいたようで――彼女は天井をあおぎ、人知れず目頭めがしらを熱くした。


(離ればなれになっても……あの子を想う気持ちは変わらないのですね。明虎さん、チャロ。私も誠心誠意、できることをさせていただきますよ)


 つゆ知らず、やっと時が動き出したゼイアは我が子の成長に驚嘆している。


「……いやいやお前! いつからそんなんできるようになったんだよ!? 男子だんし三日みっか会わざればってレベルじゃねぇぞ!?」


「手前も度肝どぎもを抜かれました……この子たちが言っていることが本当なら、それはもはや人の領域から外れた神の御業みわざにも等しい……!」


「……女王陛下(へいか)。この話の信憑性しんぴょうせい如何いかほどに……?」


 サブリナが、にわかには信じがたいといった面持ちでフルーカに尋ねる。彼女はにっこりと微笑ほほえんで答えた。


「もちろん嘘ではありませんよ。なんといっても、どちらも私のよく知る大切なひとたちが扱える力ですから……シムルくんとヴェリスちゃんが継いだのは想定外でしたが、これも決して偶然ではないのでしょう」


 フルーカは紅茶を一口飲んで、どこか誇らしげにそう言った。

 続けて、最後の問題点に言及する。


「ちなみに、同じ人が何度も魔除けを受け取りに来てしまう可能性につきましては、調べたところ私の権限をもってクリアできることがわかりました」


「おお!? やっぱ女王様ってすげぇな! 具体的にはどうするんです?」


「全てのアイテムには希少性、すなわちレアリティという項目こうもくがあります。加工されたフィラクタリウムはそれだけでも十分に貴重なものなのですが……そこに私がアスター王国の国璽こくじを施すことで、このレアリティが最高値に達します。実質、それが解決方法となります」


 フルーカによると、この世界の最高ランクのレアアイテムは一人一個までしか所持できない仕様となっているらしい。そして入手判定は各々の魂で行われているため、二度目の購入を行った者がいた場合、手に持った際にすり抜けてしまうのだとか。


「確かにそれなら一目瞭然(りょうぜん)だなぁ! いや~今日は初めて知ることばかりで、なんだか驚き疲れてきたぜ」


「ええ、手前も目からうろこです」


「……えっと、コクジ? っていうのがどういうものなのかはわからないけど。おばあちゃんが何かするってことは、アーリアたちがつくったアクセサリーは先にこっちへ運ぶんだ?」


「そうなるな。まあ、そこも瞬間移動さえ使えりゃ無問題だろ。当面はスキル頼りになるとは思うけど……これからガンガン練習するから、期待しててくれよな」


「うふふ、頼もしい限りです。……では無事に方向性も決まったところで、このまま晩餐(ばんさん)会とまいりましょうか。みなさん、お疲れ様でした」


「わ、やった!」「マジ!? おっしゃ~!」


 年相応にはしゃぐ二人に、ほおを緩ませる大人たち。明るい雰囲気のなか、アスター城の夜がけてゆく。

色んな人の協力で、なんとかここまで漕ぎ着けました。


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