第113話 周波数
「あなたはどうやって私に念を飛ばしたのか、今一度よく考えてみてください」
「え? そりゃ……視えないものが感覚で掴めてる状態なら、神出鬼没なあんたでもひょっとして捕捉できるんじゃないかと思って、探って……」
「ではその際、捕捉したのは私の何だったのですか?」
「……たぶん、魂」
「よろしい」
そう言うと、急に明虎が視界から消えた。面食らって周囲を確かめたところ、彼は超感覚を制御中のヴェリスの後方にて、腕を組みながら木に寄りかかっている。何が起きたのか理解しようと努めるシムルの脳内に、彼の声が響きわたった。
(今のはヴェリスさんの魂を座標にして移動したのですよ。同じ理屈で、このようにテレパシーを送ることも可能。先刻あなたが私を呼び出した方法がこれです)
(! じゃあやっぱり……! ってあれ?)
念話を続けようとするも失敗してしまう。明虎の登場に驚いて集中が切れていたことを思い出したシムルは、むなしく舞った心の声に赤面した。彼はその様子に肩をすくめると、浮遊しながら再び目の前へとやってくる。
「あなたの場合、ゾーン状態でエネルギー均一化を行った上で、固有スキルによる無意識の拡張がなければ捕捉自体が成り立たないようですね。まだまだ不自由きわまりない」
「……ん? それってさ、逆にいえば明虎さんは常にそうってこと?」
「然り」
「!? いやいや、そんなの普通に考えてあり得ないでしょ! いったい何を食べて育ったらそんな風になれるんだ!?」
「太陽」
「はぁ!?」
「無論、そのまま食しているわけではありませんけどね。さておき……捕捉する対象を魂に限定すればテレパシー。魂およびそれが存在している周辺空間へ広げればテレポーテーションが使えるようになるわけです」
「……ちなみにその限定とか拡張とかってのは、スキル無しの場合どうやって制御したらいいの?」
「捕捉とは、自我と対象物の周波数を揃えること。あとは自力で考えてください」
「ちぇ、わかったよ。じゃあ残りの二つのやり方は?」
「フローティングとタイムストップについてはまだ時期尚早です。ということで、用が済んだなら私は失礼しますよ」
「あ!」
取り付く島もなく、明虎はまたどこかへと消えてしまった。一切ためらいのない去り際だったが、もしや多忙なのだろうか――彼のことは相変わらずよくわからない。シムルが呆けていると、不意に後ろから声を掛けられた。
「シムル、どうしたの?」
「え? ああ、ヴェリス! そっちはどうだった?」
「んとね……」
こうして、それぞれ大きな収穫を得た二人は情報交換しながらアスター城へと帰還した。力を行使した影響かお互いひどく気疲れしてしまっていたため、会議までの残り時間は仮眠して過ごすことにする。ゼイアに目覚まし係を要請した彼らは、フルーカの用意してくれたベッドやソファに倒れ込み、泥のように眠った。
◇
シムルへの助言を終えた明虎。
彼は底なしの闇のなかで、とある存在と対峙していた。
「お前か。私の網の目をくぐって、愚か者二号に処されたというのは」
《……何奴》
「いやはや、奥魔もここまでくると感心してしまうねぇ。その吐き気を催す膨大な♯∽Δ�§¶……せいぜい無明荒野へ至れたことに感謝するといい」
《殺すぞ》
「クク、出られもしない癖に随分と強気じゃないか」
《悠久など我らにとっては須臾に過ぎぬ》
「しかし相応の報いは避けられない――違うかい? そこでひとつ提案があるんだけどさぁ」
《……己は……》
「なに、別段難しい話ではない。ちょっと未来に貢献してくれたまえよ」
太陽をかじる明虎さん(捏造)
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