第112話 ふたりの導き
「夢……?」
言うまでもなく、この場合における夢とは、誰しもが睡眠時に見るとりとめのない映像のつぎはぎを指していると思われる。では、それを通じて情報伝達ができるとはどういう意味なのだろうか。
「要は、気脈にあなたの言葉を流せばよいのです。そうすれば、人々は眠ったときに潜在意識でそのメッセージを受信しますので、夢のなかで告知を行うことができる。今回に当てはめるなら、"こういう条件で魔除けを配りますよ~"といった内容にするのが良いかと存じます」
「んー……でも、夢なんでしょ? みんな信じてくれるかな……」
「でしたら、"起きたあと身近な人へこのメッセージを共有してください"と添えてみるのはいかがですか? そうしたアナウンスを数日ほど繰り返せば、世界中の人々が短期間に同じ夢を連続で見ているという不思議な現象が広く認知され、否が応でもウワサが立つはずです。これなら魔除けの存在は急速に知れ渡ってゆくでしょう」
「なるほど、いいかも……! 言葉はどうやって流せばいいの?」
「この空間でつよく祈ってください。あなたがクイスの魔の手から、阿岸佳果を救ったときのように」
ヴェリスの脳裏に件の出来事が浮かんでくる。もたれかかる佳果と額を合わせ、彼を助けたいと太陽の雫を握りしめながら必死に祈った瞬間、光が空に向かって飛んでいったあの場面。いま思えば、光の行き先はこの場所だったのかもしれない。
――いずれにせよ、シムルとチャロのおかげで希望が湧いてきた。帰ったら会議で進言してみようと、ヴェリスはガッツポーズをとる。
「……わかった! じゃあ、他の問題も片付いたらまた来るね」
「ええ、是非ともがんばってください。といっても、おそらくそれらはすでに解決している頃でしょうけれど」
「え?」
◇
ヴェリスが宇宙の瞳をして世界の光に融け込んでいる間、シムルはゾーンを維持しつつ、テントーマによって引きのばされた潜在意識のなかで静かに思考していた。
(おれはヴェリスみたいに色んなものが視えるわけじゃない。でもこの状態に入ると、無いはずのものが存在してること、みんなが何かでつながってること……そしてそこに、距離や時間は関係ないってことが感覚でわかるようになる。もしこれがおれの勘違いや幻想ではないとすれば……試してみる価値はあるよな)
彼は至った"無"を介して、自らの念を飛ばす実験を行った。送りつける対象は――かつて目の前で時を止め、宙に浮かび、瞬時に姿を消してみせたあの男だ。
(聞こえるか……! おれはシムル! ラムスの村の、陽だまりの風のシムルだ! みんなを助けるために、あんたと話がしたい! 聞こえたら返事を……)
「そう力まずとも聞こえていますよ。何用ですか」
「ひゃわぁ!」
こちらから呼んだ手前ではあるのだが、こうも突然に来られると心臓が飛び出そうになる。一瞬で集中が吹き飛んだシムルは、ぜえぜえと息を整えながら言った。
「びっくりした~! あ、あんた、名前は明虎さん……だったよな?」
「やれやれ。詮ないことを言っていないで、早く本題に入ってくれませんかねぇ」
「うぐ、相変わらず飄々としてるなあ……まあいいや。明虎さん、単刀直入に聞くけど、今のはどうやったんだ?」
「今の、とは」
「とぼけずに答えてくれ。あんた、瞬間移動が使えるんだろ」
「……ほう」
「それだけじゃない。空を飛ぶのとか、時間をあやつるのとか……おれはあんたが、時空に干渉する方法について何か知っていると踏んでる」
「ふむ」
「……なあ頼むよ。おれには、おれたちにはその力が必要なんだ! ただでとは言わない! おれに払える対価は何でも払うから……だからどうか、教えてく――」
「別に構いませんよ。特段価値のある情報でもありませんし、お代も結構です」
「ッ! やっぱそうだよな……おれもそんな簡単に教えてもらえるとは思ってな……どぅぇっ!? 今なんて言ったんだ!?」
「まったく騒がしいお子様ですね。あなたはもう気づきを得ているではないですか。それすら教えを乞おうとしたのであれば突っ撥ねて終わりですが……資格のある者が先へ進もうとしているのを拒むほど、私は性悪ではない。……はて、いつぞやに同じようなセリフを吐いた気がしますね」
「?? とりあえず、本当にタダで教えてくれるのか?」
「構わないと最初に言ったでしょう。あまりクドいとヴェリスさんに嫌われますよ」
「なっ……ほ、ほっといてくれ!」
「クク。では早速」
先輩方からのアドバイス回。
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