第111話 ほうき星
「チャロ、あれなに?」
地上を見下ろすと、数多のまるい光が天灯のごとく瞬いている。それらは規則的でありながらも不規則なゆらぎを伴っており、ヴェリスはラムスのうたげで見たキャンプファイヤーの安らぎを彷彿とした。幻想的な光景が心を魅了してゆく。
「この世界で過ごしている人たちの魂ですね。あの煌めきひとつひとつに、命が宿っているのですよ」
「……きれい」
「ええ、本当に」
しばらくの間、二人は笑顔で魂のプラネタリウムを眺めていた。しかしおもむろに、ヴェリスがチャロのほうへ視線を向け直す。彼女の背後には広大な金雲の海と水平線、淡いオレンジとピンクの混ざった空がどこまでも続いており――その絵画のような佇まいのせいなのだろうか、本人からはいつにも増してつよい輝きが感じられた。
「あっちもきれいだけど、やっぱりチャロは特別きれいだね」
「あら……そんなおべっか、どこで覚えたんです? あまり人たらしなのは感心しませんね」
「? チャロは、初めてみたあの日からずーっときれい。きらきらしてほわほわして……わたしはいつも、あなたを尊敬していた」
「…………」
「ねえ。わたしがあなたくらいまぶしくなれたら、みんなを助けられる?」
「みんな、ですか?」
「うん。世界で苦しんでいる人たちに、苦しめている人たち。わたしの大好きな佳果たちに、それぞれが大切に想っているひとたち――もちろん、チャロも」
「!」
ヴェリスの澄んだ瞳が、まっすぐにこちらを射抜く。彼女は理屈ではなく、感じたままにそう言っただけなのだろう。チャロは困ったように目を閉じると、くるりと背を向けて返答した。
「ヴェリスさん。これからもみんなを想う、その気持ちを大事にしてください。ただ……わたしを目指すのは、どうかおやめなさい」
「……なんで?」
「あなたには、あなただけが歩むことのできる道がきっとある。みんなを助けたいと願うのでしたら、その道を自分自身の意志で見つけ、仲間とともに――阿岸佳果とともに進むのです」
「佳果と?」
「ええ。彼ならばあるべき場所へ辿り着けるでしょう。そこに至ったとき、あなたは誰よりも輝けるはずだから。わたしを目指す必要なんて、まったくないのですよ」
どこかはぐらかされてしまった気もするが、ヴェリスは彼女が本心でしか言葉を紡ぐことのできない性格なのを直感的に看破していた。ならば表情は見えずとも、依然としてきらきらしているのが答えなのかもしれない。詮索したい気持ちを抑え、ヴェリスはここへ来た理由について話を進めることにした。
「……あのね、チャロ。わたしたちは今、世界にフィラクタリウムを配ろうとしているの。でもおばあちゃんたちと話し合ってみたら、色々と問題があるんだって。そしたらシムルがね、ここを調べてみろって」
「ふむ。いささか支離滅裂ですが、理解はできます。するとシムルさんはもうお気づきのようですね」
「どういうこと?」
「現在わたしたちのいる空間――この"世界の光"は、すべての魂と気脈で結ばれています。顕在意識をもって実際につながるには、光をたべるプロセスが必要となりますが……潜在意識の場合、実は誰しもが毎日つながっているのです」
「……ごめん、よくわかんない」
「フフ、つまり夢ですよ。夢を通じてなら、すべての人々へ情報伝達が可能です」
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