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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第八章 影のなかで ~救い、救われし関係~
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第104話 絆のひかり

(なるほど……組長はこの地獄みたいな毒気どくけに当てられたんだな)


 むせかえるほどの黒い霧をかき分けて進む楓也。歩くたびに血溜まりがバシャリと飛沫しぶきをあげ、周囲は断末魔やうめき声で満たされている。もし魔の自分を呼び出していなかったら、即座に精神を破壊されていただろう。


(阿岸君はどこだ? こんなの、はやくしないとたない……!)


 佳果なら大丈夫という絶対的な信頼と、間に合わぬかもしれないという絶望的な不安がのしかかり、焦燥感がつのる。最悪な視界のなか、楓也は目を凝らして彼を探し続けた。


(……?)


 ある地点でモヤがひしめき合っている。他に同様の現象が発生している場所は見当たらないため、十中八九あそこに何かあるのだろう。走り寄った楓也は手でモヤを払いのけると、中心部に腕を突っ込んで引っ張り上げる。「そおれ!」という掛け声とともに投げ出されたのは、はたして佳果であった。


「阿岸君!」


「……う……ぐ……」


 横たわった佳果はきつく目を閉じて震えていた。まだなんとか正気をたもっているようだが、その衰弱ぶりは一刻を争うほどの容態である。彼は弱々しくつぶやいた。


「誰か……そこにいるのか……」


「っ! ぼくだよ! 青波楓也だ!」


「……悪い、いま頭んなかで……たくさんのうらみ言が反響してて……何も聞こえねぇんだ。自分がうまく喋れてるのかもわからねぇし……怖くて目も開けられねぇ」


「!」


「だが、もし誰かいるなら……伝えて欲しいことがある……俺の大切な人たちに……」


「や、やめてよ! 縁起でもない!」


「俺を家族として受け入れてくれて……感謝していると……」


「――――」


「それとあいつの……夕鈴のことを……どうか頼む、と……」


 彼が瀬戸せとぎわつむいだのは、仲間たちへの深い感謝――そして夕鈴をあきらめなければならないという、悲痛の悔恨かいこんが入り混じりつつも、己の意志を託さんとする信頼の言葉だった。


 楓也は表情をゆがめながら、佳果の肩を持って無理やり抱き起こす。そうして魔と化していた自らを通常の状態へ戻し、魂の光を解放した。これにより、彼に向かっていこうとする黒を自分の方へと引きつけ、悪化を防ごうと考えたのだ。しかし当然、代償だいしょうとして楓也も侵蝕しんしょくを受けるかたちとなってしまう。


(ううっ……ぐっ…………前も言ったでしょ……一人にはしないって……!!)


 狙いどおり、一時的に身代わりを成功させた楓也。とはいえ、このままでは心中の結末に向かうばかりだ。極限状態のなか、彼は賭け(・・)に出ることにした。


「……阿岸君、今なら聞こえるよね?」


「…………ふ……うや……?」


「うん」


「……かか……最後に見る幻覚が……お前とはなぁ」


「なにさ、不満なの?」


「まさか……感謝しかねぇよ…………欲をいえば本物のお前に……あいつを任せたかったところだが……」


「!」


「お前だったら……安心してゆだね――」


「――阿岸君」


 未練をいつわって諦念ていねんを語る佳果を、楓也がさえぎるように言い放つ。


「ぼく、押垂さんが好きだ」


「…………え……?」


「たぶんあこがれも恋慕れんぼも含めて……押垂さんのことが好きだ。でもね。ぼくがかれたのは……君を愛することで、きらきらと輝いていた彼女の魂なんだよ」


「おま……なに言って……」


「だから阿岸君。ぼくじゃダメなんだ。君じゃなければダメなんだ! いいかい? ここでぼくに任せてしまったら、彼女は永久に幸せになんかなれない!」


「…………」


「それに君だって、あの子のことが好きで仕方ないんでしょ!? なら他の誰でもなく君が迎えにいかなきゃ! あの子を救うのは君の、君だけの役目なんだから!」


「…………!」


「わかったらいつもみたいに悪態あくたいつきながら立ち上がってよ! 闇なんかにくっしないって……彼女を想う気持ちは誰にも負けないって、ここで証明してみせてよ! じゃなきゃあの子もぼくも、君自身も……本当の意味で笑える日なんて、絶対にこない!!」


「…………!!」


 楓也の魂の叫びが、佳果のこころに炎を灯す。それはどのような闇であろうとも消すことのできない愛の感情――絆のひかりだった。刹那せつな、黒を受け取っていちじるしく汚染されていた彼の魂は、それらを吐き出すかのごとく、強い振動をともなって輝いた。ブラックホールはホワイトホールへと変質し、溜め込んでいた負の感情を一気に放出する。同時に、どこからともなく声が聞こえてきた。


《……よくぞ打ちった》


 振り返ると、巨大な龍がいかめしい顔をゆるめ、舞うように空を泳ぎ回っている。次の瞬間、奈落にあった精神世界はページをめくるように晴れ渡り――取り巻いていた無数の黒が、どこか遠くへと旅立っていった。そして再び、ウーの姿が視えるようになる。


『ヨッちゃん! フーちゃん! 大丈夫!?』

お読みいただき、ありがとうございます。

「知ってた」という感じですが

ようやく三人の関係が前進しました。


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