第98話 火花
「なるほど、それで戻ってきたんだ!」
再度ログインした二人の話を聞いて、いつものごとくÜの笑顔を浮かべるウー。彼は犬の姿で、しっぽをぶんぶん振りながら「おかえり~!」と言った。
「今回は語尾にワンとかつけねーのか」
「あれは気まぐれにやってるだけだからにゃあ」
「なんでもありかよ……」
彼のマイペースさに脱力しつつ、三名はさっそく本題に入る。佳果と楓也は黒のモヤについて質問を投げかけた。そもそも黒とはなんなのか。ヴェリスはそれが外側から来ている場合もあれば、元々もっていたりするとも話していたが――。
(んー、これはヨッちゃん達が必然で辿り着いた問いだよね。なら今回もアーちゃんの言ってた、人間の自由意志は侵さないはず……主様。吾輩、あれから色んなことを学べて楽しいです!)
「おい、急に黙ってどうした? もしかして次元うんぬんと一緒で、黒も話せねぇ内容だったりするとか……」
「いいや、それとこれとは別だから大丈夫! そうだなあ。二人はもう、愛のエネルギーが光だってことは知ってる感じ?」
「ああ。そんなような話、チャロやノーストさんからも聞いてるしな」
「なら魔のエネルギーが闇なのも?」
「履修済みだよ。ぼくらは、その闇が黒の正体だと考えてるんだけど」
「ふむ……でも、もう少しだけ掘り下げてみようか。闇って何かはわかる?」
「……抽象的な話になってきたね。チャロさん風に言うなら……"我欲"?」
「ほうほう。では我欲とはなんぞや?」
「お前、適当にオウム返ししてるだけじゃねーだろうな」
「わはは、吾輩は大真面目だよ! さあ、ヨッちゃんならどう答える?」
我欲とは何か。
単純に読んで字のごとく捉えるならば、私利私欲やエゴに換言できると思われる。しかしその定義を改めて問われると、どのように説明したものだろう。
「……"他人のためにはならねぇ願い"、とか?」
「逆にいうと"自分のためにしかならない願い"とも言えるよね。どうかなウー」
「うん、間違ってはいないと思うよ。ただ、あと一歩踏み込んで言うなら……我欲というのは、つまり"負の感情の源泉となる情緒"を指しているんだ」
ウーが難しいことを言い始める。ノーストは情緒を『本能の延長線上にある、裁量的な心の動き』あるいは『自己判断の起点となる心の起伏』と言っていた。ではこの場合における感情とは何なのだろう。
「つーか、まず感情と情緒って別モンなのか? そこからしてわからねぇんだが」
「違うものだよ~。一番わかりやすいのは持続時間かな。情緒は何かに直面したとき、その場かぎりで散りゆく火花みたいな気持ちのことさ。いっぽう感情は、その火花が炎に姿を変えて、ずっと燃え続けるようなイメージだね。良くも悪くも、人はこれを原動力にして日々を生き抜いている部分がある」
「炎……ねえウー。"負の感情"って例えばどんなものを指して言ってるの?」
「たくさんあるなあ。原始的には強欲とか憎悪とか羨望とか。ちょっと進むと嫉妬とか罪悪感とか畏怖とか……まあ挙げればキリがないよね!」
彼によると、そうした負の感情の燃料となり得る情緒こそが"我欲"ということらしい。ちなみに燃料の種類は魂によって異なるそうだ。
「イマイチ理解が追いつかねぇんだが……仮に、黒のいちばん深いところにその燃料的な情緒があるとしてよ。それが外側と内側にあるっつーのはどういうカラクリなんだ?」
「んとね。魂は愛と魔でできているわけだけど、そのうち後者を内魔とか奥魔と呼ぶんだ。ヴェーちゃんの言う、みんなが元々もっている黒っていうのがこれに該当する」
「……じゃあ、外側は?」
「外側にあるのは――人よりも先に進んでいる魂の奥魔というケースが多いね」
お読みいただきありがとうございます。
けっこう重要な話かもしれません。
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