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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第八章 影のなかで ~救い、救われし関係~
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第97話 人のかたち

「と、東使とうしぐみ……!?」


 楓也の顔色が変わる。佳果も暴力団というワードを聞いて少し表情をこわばらせた。反社会的な組織が相手となれば、めぐるがこれだけしぶったのも納得である。


「やばい連中がからんでるってわけか。確かにそりゃ慎重にならざるを得ないな」


「…………」


「楓也? どうした」


 あぐらをかいて腕組みしている楓也。彼は真剣な眼差しで黙りこくっていたが、一呼吸おいてから重い口を開いた。


「阿岸君、一年の時にさ。押垂おしたりさんを襲ってきた不良たちのこと覚えてるよね?」


「あん? そりゃ忘れるはずもねぇが……っておいおい、まさか」


「そう。あいつらが"上"って言ってた連中こそが、東使組なんだ。で、その組長(トップ)が東使拓幸(たくゆき)――今回の依頼主ってことになる」


  あのまわしい一連の事件を引き起こした、高校の不良グループ。その悪意の背景にはなんと極道が控えていたらしい。想像を超える深い闇に、佳果のこころは複雑な感情で溢れかえった。


(……魔ってやつが差し込んでくんのは、どこの世界も同じか。だがノーストさん達は尊厳を守って、葛藤かっとうして……自分自身と闘っていた。ひきかえ俺たち人間は、それをてめぇの意思で踏みにじったり、平気で手放したりする。……魔人のあんたや魔物たちから見て、俺らは一体どういうふうに映ってるんだろうな)


 皮肉な思考につられ、くもった笑みを浮かべる佳果。部屋の中に暗い空気が広がってゆく。めぐるはそれを取りつくろうように、そしていぶかしげに言った。


「えっと……もしかしなくても、二人は組長さんのことを知ってるの?」


「いや、阿岸君はほとんど知らないはずだよ。ぼくはそれなりってとこかな」


「? なんでお前は知ってんだ」


「あの事件のあと、ぼくは連中を嗅ぎ回っていた時期があるからね。ぶっちゃけ組長とは面識もある」


「!?」「お、お前ってやつはまたそんな危険な橋を……!」


「ごめんごめん。あの頃はちょっと生き急いでた部分もあってさ……でも、ちゃんと収穫はあったんだよ? 具体的には――」


 当時、楓也は東使組について独自に調査を進めていた。その結果、夕鈴が襲われたのはあくまでも末端まったんのチンピラが独断で起こした暴走であり、本部はいっさい関与していなかった事実を突き止める。


 その際、組長はネズミを働いていた彼の存在に気づき、ビデオ通話を使って秘密裏にサシでの対話を求めてきたという。諸々(もろもろ)の覚悟を決めて通話に臨んだ楓也だったが、彼を待っていたのは制裁ではなく、身内の不始末に対する謝罪の言葉と、本件の摘発てきはつに一役買ったことへのお礼だった。


 翌日、組長は事件と関わりのあった者たち全員に破門を告げ、落とし前をつけさせるため刑務所へ送り出したそうだ。さらに二度とこちらには手を出さないよう、ちかいまで立てさせたのだとか。


「マジかよ……確かにあれ以降、俺らにつきまとうやつはいなくなったけどよ。でもそいつ、極道の親玉なんだろ? 結局ぜんぶパフォーマンスで、報復ほうふくする機をうかがってるだけなんじゃ……」


「それがね。あの組長、その筋では任侠(にんきょう)権化ごんげとまで言われてるくらいの人で……この辺りって、のなかでも極端に犯罪率が少ないのは知ってるでしょ? あれは東使組が抑止力になって治安が維持されてるからなんだ。ぼくたち一般人は、知らないところで彼らに平和を守ってもらっていたところもあるんだよ」


「…………」


「……実はうちも、むかし親が事業で失敗しそうになったときに助けてもらったことがあるらしいんだ。あの人、約束は必ずまもる流儀りゅうぎみたいだし……今後も報復の心配はないと思う」


 深い闇にも一筋の光明こうみょう――佳果はことさら複雑な心境になったが、他でもない楓也とめぐるがこう言っているのだ。警戒は必須にしろ、その組長は多少なりとも信用できるのかもしれない。


「とはいえ、組長さんが社会的に許されない立場にいるのは事実。それに自分は組を支持するつもりなんて全然なくて……ただ、もし"黒いモヤ"が依帖えご先生と同じもので、今後なにか良くない連鎖や不幸が生まれる可能性があるなら……自分らの力でどうにできないかなって、そう思ったんだ」


「……なるほどな。お前の話はよくわかったぜ」


「どうするの? 阿岸君」


「とりあえず、話を聞くかぎりモヤってのは組長の親父本人がうなされてるだけで、周りに見えてるわけじゃねーんだろ? まずはそこの詳しい情報を得て、もし対応できそうなら依頼を受けるってんでどうだ? もちろんこっちの安全は保障してもらわねぇと困るし、これを機に東使組とのコネができるのも勘弁かんべんだけどよ」


「自分もその条件で異存はないよ。色々と考えてくれてありがとう、二人とも」


「じゃあ決まりだね。ぼくらはウーに話を聞きに行こうか。最終的に受けるかはまだわからないけど、須藤君は店主に連絡してもらって、セッティングの打ち合わせをお願い」


「わかった」

お読みいただきありがとうございます。

回を追うごとに楓也の非凡ひぼんさが

目立ってきたような気がします。


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