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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第七章 己のあかしはどこにある ~同じ空を見上げるために~
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第93話 スタートライン

「試験は無事に終わったようだね」


 夜空から明虎がゆっくりと降りてくる。

 楓也は落ち着いた表情で、湖を見つめながら言った。


「……あなたは、最初からこうだったんですか?」


「こうとは?」


「ぼくは今、あらゆるぼくを内包しています。……とても自由な心地です」


 夕鈴ゆうりに気持ちをいつわったあの時の自分は、なまじ佳果に対する劣等感れっとうかん嫉妬しっとといった負の感情を制御しきれず、無力の錯覚が起こったことで自己否定にさいなまれた。


 そんな自分を本心によってだまし、つよく在ろうと身につけた新たな鎧は、人格ごと感情を矯正きょうせいするため、トリガーがなければ戻ってこれない諸刃もろはの剣――そして深い闇にもぐるほど、二度と外せぬ可能性のある呪われた装備でもあった。


 だが、かつてないほど魔に傾いた状態で"どれもが自分である"という引き金をひくことに成功した今、楓也は心ひとつで何者にでもなれる境地に至っていた。これならば、ありのまま振る舞いつつも魔獣たちへのカモフラージュが両立できる。彼は世界が広く、また狭くなったように感じた。


「……なにやら感慨にふけっているようだけど、勘違いしてはいけないよ。君はこれでようやくスタートラインに立ったんだ。重要なのはこの先であって今ではない」


「相変わらず手厳しいですね」


わきまえておくといい。どんなに卓越した演技であろうとも、自らの魂がもつ周波数を超えて変幻自在に立ち回ることはできない。真の意味で自由となりたくば……」


「エリア(10)を目指せ、と?」


「……フフフ、期待しているよ」


 明虎はいつになく満足そうに笑った。

 そうして恒例こうれいのごとく浮かび上がり、立ち去ろうとする。


「あの、波來ならいさん」


「なにかね」


「フルーカさんから聞きました。チャロさんや押垂さんと、旅をしていたって」


「…………」


「押垂さんがまだ生きていた頃、ぼくは黒の情報屋であるあなたからプレイヤーとしての彼女に関する情報をたくさん頂いてきました。でも今になってみれば、あれらは表面的なものだけで……核心に触れるような内容は一切含まれていなかったと思います」


「……何が言いたいのかな?」


「当時あなたがパーティを離脱して身をひそめた理由。そして現在ぼくたちにこだわっている理由と、押垂さんが亡くなった本当の理由――答えは自分たちで見つけるつもりなので、別に教えていただけなくてもいいんですけど。ただ……」


 楓也は一瞬、聞くのをためらってから振り絞るように尋ねた。


「ぼくたちは本当に、このまま進んでもいい(・・・・・・・・・・)んですか?」


「…………」


 彼の問いに、明虎は珍しく長いあいだ沈黙していた。

 だがやがて背を向けると、月を見て彼は言った。


「……あのおろか者を救えるのは君たちだけだよ。その道の先にこそ、あるべき世界があるのだと私は考えている」


「え……」


「もぷ太くん、君は迷わずに進め。もし今後、()だまりの風がむようなことがあっても……君がみなを導くのだ。決して、私のようになってはいけない」


「あ、波來さん!」


 手を伸ばして制止するも、彼は闇に紛れて消えていった。「あの人は思わせぶりな言動をしないと死ぬ病気にでもかかっているのか?」と思いつつ、楓也は手元にある夜の水月を眺める。そろそろ、みんなのところへ戻らねば。


(っと、この格好のままじゃびっくりされちゃうよね)


 世紀末のようだった装備を元に戻し、駆け出す楓也。

 最後の定期連絡を済ませた彼は、ラムスへと帰還する。

お読みいただきありがとうございます。

今後も匂わせムーブおじさん(お兄さん?)をお楽しみください。


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