これ、なんだか分かる?
焦りまくる私を、溜め息のでるような美しい瞳で見つめるクリス。今までのクリスとギャップがありすぎて私はとても混乱していた。
「俺はシルフィさえいてくれたら、他になにもいらない」
そう言ってクリスは私の顎に指を添え、そっと上に向かせる。
ゆっくりとクリスの顔が近づいてくる。
うわっ、来る!
キスだ。
どうするどうする?
抵抗できないのが辛い。
さっきは自分からキスしておいてなんだけど、やっぱり私が私ではない時にキスしても、全く嬉しくないよ!
····
ドギマギしている時に、不意に自分の意思で手が動いた!
あれ、もしかして動ける?
身体が自分の思うように動かせる事に気がついた私は、唇が触れる間際、とっさに自分の唇を手で覆ってキスを未然に防いだ。
「シルフィ?」
三時間が経過して〖媚薬〗の効果が切れたみたいだ。
私はクリスから後ずさること三歩。
クリスは驚いて私をじっと見つめる。そりゃ驚くだろう、態度が百八十度変わるんだから。
私はやっと本来の自分に戻れてホッとしたのもつかの間、〖媚薬〗の効果の為にとんでもない選択をしてしまった現状をどうにかしなければならない。半泣きになってこの事態をどのように収拾しようかと途方にくれる。
「あれ、時間切れか」
クリスはそう呟いて私の頭をポンポンと撫で、いきなり私を横抱きにした。
えっ、なにこれ?お姫様だっこ!
····
ん、今なんていった?
時間切れかって、どういう意味?
私は横抱きにされたまま上目遣いでクリスを見ると、それに気がついたクリスはまた優しく微笑んでソファーに私を降ろすと、隣にゆっくりと腰掛けた。
あ、あの···どうしよう。
クリスの言った言葉の意味が分からないまま、私は内心とてもオロオロとしていた。
「これからが本番だ」
「···それってどういうこと?」
クリスはスーツの内ポケットからなにやら取り出してテーブルに置く。
「これ、なんだか分かる?」
げ!
クリスがテーブルに置いたもの。
それは紛れもなく、私が彼の部屋に忘れてきた〖媚薬〗だった。