来訪者
ベッドに潜り込みしばらく泣いた私は、祖母にもらった〖媚薬〗について考えを巡らせていた。
改めて祖母の手紙を確認してみると、〖媚薬〗の効果は三時間続くとある。
〖媚薬〗を飲んだのが今日の十時だった。それだと十三時までは効果が続く事になる。その時間までは絶対に外に出てはいけない。
もし万が一外でクリスに出会ってしまったらとんでもないことになる。
自分が何をしでかすか分からない今、家から出ずに〖媚薬〗の効果が切れるのを待つしか方法がないのだ。
それにしてもクリスも私も〖媚薬〗を飲んだはずなのに、クリスはなんともないのだろうか?
何故私だけ?いくら考えても分からない···。
私はベッドからのそりと起き出した。
泣いた後だけに顔でも洗おうかと洗面台に向かう。
鏡に映る私はあまりパッとしない。緑色の瞳はいつもよりもくすんで見えるし、赤みがかった明るい茶髪は乱れている。
はあ、こんなんじゃダメだ。
気分を切り替えるためにシャワーを浴びよう。
それから、着飾って遊んでみようかな。
これで時間を潰せば〖媚薬〗の効果の切れる時間になるでしょう。
私はシャワーを済ませクローゼットの扉を開き、手持ちの中でも取っておきのピンクのドレスを取りだし袖を通す。
髪を結い上げ、ついでにメイクをしてみる。
こんなことで気分が回復するのだからお安いものだ。
鏡に映った私は先程と比べようもないほど生き生きとして見える。
あと一時間で〖媚薬〗の効果が切れる。
このままのんびりとお茶でもしよう。
私はそこではたと思い出す。
私の好きなお茶の茶葉や〖媚薬〗をバスケットごとクリスの部屋に忘れてきたことを。
あう···。
あの茶葉美味しくてお気に入りなんだよね。
···じゃなくて。
〖媚薬〗の小瓶、大丈夫だよね···。
そんなに簡単にバレるものではないと思うけど、不安が無いと言ったら嘘になる。
でも〖媚薬〗の効果が切れるまで取りにいく事はできない。
バレませんようにと神に祈るしかない。
私は違う茶葉を用意しにキッチンに行こうと立ち上がったその時、トントンとドアをノックする音が部屋に響いた。
あれ、今時分に誰だろう?
「どうぞ」
部屋の扉がゆっくりと開いた。入ってきた相手を見て私は驚愕し、思わず三歩後ずさった。
サアっと頬に朱が差し、腕が震え始める。
熱も出ているみたいだ。
「クリス!!どうして?」
いやーーー!
何で家まで来るの!?
ていうか、家の者に何も言付けなかった私が悪い。
今日は絶対にクリスを家に入れてはいけなかったのに何やってるの私ー!
クリスは赤い薔薇の花束を抱えて、明るいブルーのスーツ姿だ。まるで絵画から飛び出して来たように素敵すぎて目眩がする。
「シルフィ!···話があるんだ」
あーだめだ。
変な気分になってきた。
このままここにクリスを置いておくことはできない!
「クリス、お願いだから何も聞かずにすぐ帰って」
「え?!ちょっと待って」
私は大慌てでクリスを背後から押して部屋から追い出そうと試みる。
しかし、いつの間にか私は背中からクリスをしっかりと抱き締めていた。
うぎゃー!!
もういや。