クリスの家へ
私はクリスの家の前に立ち、玄関のノッカーを叩いた。
執事が現れてすぐにクリスの部屋に案内される。
幼馴染みだから、こういうときは便利だ。
「こんにちは」
私は声をかけて部屋に入ると、クリスはソファーに腰掛けて本を読んでいる所だった。
本から顔を上げた彼と目が合い、私は咄嗟に作り笑顔を見せた。
これから〖媚薬〗を使うのだ。
バレないようにしなければならない。
クリスは驚いたような顔をして立ち上がり、私の近くまで歩いてきた。
「シルフィ、どうした。お前がここに来るなんて珍しいな。何年ぶりか」
背が高い彼を見上げる私は、こほんと咳払いをひとつして口を開いた。
「珍しいお茶を手に入れたから、たまにはクリスと一緒に飲もうかなあと思って」
私は手に持っているバスケットを開け、サンドイッチと茶葉、そして例の小瓶を彼に見せた。
それを見たクリスは一瞬ぎょっとしたように見えた。
「ん、どうしたの?」
「い、いや。何でもないんだ」
クリスはゴホゴホと少し咳き込んだ。
訝しむ私に気付き、すぐにいつもの取り澄ました表情に戻るとニヤリと笑って呟いた。
「お前、お茶とか入れられるの?」
「まあ!失礼ね。それくらい出来るわよ」
ほら、始まった。
私が何かするとすぐにチャチャを入れてくる。
どうして素直にありがとうって言えないのかな?
このサンドイッチだって私の手作りなんだから。
今日の為に一生懸命作ったのだ。
多分美味しいはず。
見た目はなんだけど···。
私は執事に用意してもらったポットとカップを受け取り、お茶を入れ始める。
ポットに茶葉とお湯を入れ、しばらく蒸らしてカップに注ぐ。二つのカップに用意しておいた小瓶の薬を一滴ずつ垂らした。
薬はさあっとお茶に溶け込んだ。
あ、もちろん私はお茶を飲むつもりはない。
「シルフィ、その小瓶は何?」
キター!
バレないように演技演技。
「え?あー、これね。これを入れるとお茶が美味しくなるんですって!ちょっと甘いみたいだけどね」
「え?甘いのかそのお茶」
「あれ、甘いお茶ダメだったっけ?」
「お前、入れる前に聞けよ」
「あう···」
うわあ、まずい。
そうだったっけ?昔は甘い飲み物好きだって言ってたと思ったけど、味覚が変わったのかな。
この〖媚薬〗は甘いから、お茶などに混ぜて使う事が多いという話で、私はよく考えずにその通りにしてしまったんだけど。完全にリサーチ不足だった。そういう事なら〖媚薬〗は試せないじゃない。
はうう。
泣きそうな顔をして少しうつ向いた。
それを見たクリスは「お前はホント相変わらずだな」と言い、笑いながらポンポンと私の頭を撫でた。
そしてティーカップを持って少しずつお茶を飲んだ。