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7日目 アトリエは黒く染まる

ようやく最終回!ここまで見てくれた方、ありがとうございます。

 金曜日。週のオワリ。青年は学校をサボりアトリエに来ていた。青年は完全にそっぽを向いた少女を見て言う。



「前はごめん。来れなくて。」



 その言葉は虚空に響く。返事する者はいない。返事をしない。青年は無視されていた。目の前の少女に。



「何か話してよ。」



 沈黙が続く。空気が重い。誰も喋れない。青年も無駄だと理解してしまった。無理してでも行べきだった。そう思ってももう遅い。できることは何処にも行かないこと。動かないこと。口を開いてくれることを待つこと。それだけだった。



 ーーーーーーーーーー



 何度も分針が動いた。太陽だって下り初めている。それでも状況は動かない。いや正格に言えば動いた。少女の首が回り目が青年を捉えた。しかしその目から放たれるのは邪魔、失せろ、何処か行け。そんな物ばかりであった。青年は動かない。さも気づいていないように。自ら動かなければいけないと思わすように。少女を喋らすように。



「ねぇ。」



 そんな時。少女が口を開く。



「どうして此処に居るの?どうして此処に来たの?私を捨てたのに!」



 怒気を含んだ声がアトリエ内に轟く。青年にとってそれは予想できた言葉。青年とってそれは辛すぎる言葉。



「会いに来た。謝りに来た。ごめん。」


「謝罪なんていらない。申し訳ないと思ってるなら出てって。」


「嫌だ。」


「出てけ!」



 少女は青年を睨む。好きだと思っていた人を、敵のように睨む。殴れない。叩き出せない。そのことに少女はもどかしさを感じる。



「出て行かない。」


「どうして?」


「用事がある。」


「謝罪ならいらないから出てって!」


「そうじゃない。」


「だったら何?別れでも言いに来たの?哀れだなぁって煽りに来たの?そんなのいらないから出てって。」


「出て行かない。」


「お願いだから出てってよ。」



 少女の目に涙が溜まる。少女の目から涙が一滴流れる。その一滴を合図に少女は耐えられなくなった。



「お前は私を捨てた!絶対来ると言ったのに来なかった!その次も来なかった。そして今日になって謝りたい?ごめん?ふざけないでよっ!」



 少女の目からとめどなく涙が溢れる。怒り意外の感情も混ざり始める。



「私はお前が好きだった!気づいたのは最近だけと昔から!なのにお前は捨てた!面白くなかったかもしれない!でも、私は。少なくとも私は楽しかった。面白くなくても良かった。会話がなくても良かった。なのにお前はそれをぶち壊した!」



少女から青年は見えていないだろう。しかし少女は喋り続ける。歯止めの効かなくなったダムのように感情が溢れる。青年もまた目に涙を溜めていた。



「もうどうでも良くなった。だからどっか行けよ。そして私の前に二度と現れるな。」



消えろ。そう少女は言おうとした。しかしその言葉は少女から発されることはなかった。少女の口は青年によって閉じられていた。青年とのキスによって。



「え?」



口が離れた後、少女はそんな声を洩らす。初めて少女と青年が触れたその唇は夢でないことを示す。困惑する少女に青年はニコッと笑い



「さようなら。」



そう言ってもう一度キスをする。そのキスは二人が触れることのないキス。でも、それでも幸福感がそこにあった。目を瞑りそれを味わう。そして目を開けた時、青年はそこにいなかった。



ーーーーーーーーーー



少女は探した。アトリエ内を走り回った。そして気づいた。少女は『外』に居たこと。青年は『中』に居たこと。青年は微動だにしなかったこと。



少女は泣き崩れた。怒っていた時とは比べものにならないくらい涙が出た少女は後悔した。青年への暴言に後悔した。少女はあの感覚を思い出す。そしてまた泣いた。ずっと、ずっと、ずっと。



ーーーーーーーーーー



それから何時間も経って気持ちを落ち着かせた頃。少女は青年の鞄に気がついた。そこにはひとつの瓶と一枚の小さな紙が入っていた。



『ごめんね。こうするしかなかったんだ。』



そんな言葉から始まったそれは少女に宛てられた手紙だった。嫌な予感がしつつも少女は読み進める。



『外に出たいと言っていたよね。夢がたくさんあって羨ましかった。僕は君のほうが生きるべきだと思うんだ。夢のない僕が生きるよりも。』



それは青年の遺書のようなものだった。少女の中にあった今までの記憶が蘇る。楽しかった記憶から喧嘩した記憶まで。やることないねぇと空を眺めた記憶から夢を語った記憶まで。記憶が溢れる。涙が溢れる。短い文章。ヘタクソな文章。それでも少女には大きな物だった。



紙の最後にはこう書かれていた。



『君がどう思っているかはわからないけれど大好きだよ。』



と。少女は嘆いた。私が夢を語っていなければ、と思った。出会わなければ、と思った。無理矢理にでも帰していれば、と思った。キスを受け入れなければ、と思った。少女は後悔した。そして同時に苛々した。私を出して死んだ青年に苛々した。自分の不甲斐なさに苛々した。自分が生きていることに苛々した。



ーーーーーーーーーー



金曜日。週のオワリ。金曜日、物語のオワリ。いくら嘆けどその言葉は虚空に響く。返事する者はいない。返事をしない。屍となった青年は絵の中で笑っている。叩き出せない。その事に少女はもどかしさを感じる。



空は曇っていた。きれいな夜空を覆う分厚い雲が月明かりを閉ざしていた。

ここまでお読み頂きありがとうございます。近日中に次作を投稿する予定です。ジャンルもガラッと変わりますがお暇があればご覧下さい。

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