キッカケ
「お姉ちゃん、こっちだよぉ」
ショッピングセンターのアーケードを抜けかかる頃、妹が元気よく駆け出してすぐにこちらを振り向き、大きく手を振ってて呼ぶ。
「そんなに大声出さなくても、ちゃんと入れるから大丈夫だよ。」
「でも、でも、早く見たいよ!」
いてもたってもいられないのか、地団駄を踏み鳴らすという賑やかぶりだ。
私達が現在向かっている場所は、ショッピングセンターの先にある市立博物館である。
この博物館は、様々な分野の作品を展示するという頭の柔らかい場所だ。
今回も『スターライトノア』というアニメの原画展が開かれていた。
スターライトノア。
このアニメは大雑把な物語を言うと、地球に棲めなくなった生物全体が、宇宙空間に存在する衛星に移住し、その場を中心に様々な物語が展開していくというものだ。
作品は、両親が子どもの頃に始まったもので、今回の作品はリメイク作品であった。但し、ただのリメイクだけでなく、前回のスタッフが殆ど参加しているという話題で古参のファンを喜ばせた。
また、 新規のファンも親世代のアニメにも関わらず、心を掴まれその世界に引き込まれたのだ。
「もー、騒がない。目立って恥ずかしいって」
「【ノア】は、二の次じゃないのかな?」
横に並んで歩いていた友達のフナちゃんが、妹の方を見てクスリと微笑む。その言葉に疑問を問うように首を傾げる
「どういう意味?」
「普段、遊んであげてないから、一緒に居られるのが嬉しいんじゃないの?。」
確かに。ここしばらくの間、自分の回りは何かと忙しくて妹をかまってあげらなかったのは事実だ。
今日ここに来たのは、その埋め合わせのようなものなのだ。
「そっか。そういえば、フナちゃんにも迷惑かけてるねぇ。ごめんね、休みだったのに連れ出して。」
「良いって、良いって。アタシも妹ちゃんと遊びたかったから、お誘いは渡りに舟だったよ。」
「なに、へんな言い回しぃ」
ふたりでヘラヘラ笑いあっていると、妹が驚いた声を張り上げた。
「あ! あれ見て!」
妹の指し示す方を見ると、空が黒くなっていた。
その場にいた人たちも空の異様な雰囲気に驚き、空を指差しざわめき出す。
「空が黒くなっていく……」
唖然としたように言うフナちゃんの手を掴み
「とにかく、ここから離れよう!」
「妹ちゃんも、はやくおいで」
フナちゃんが、此方へ来ようとする妹に声をかけたその瞬間、いきなり恐怖心に駆られた人達に飲み込まれて行く。
「どうしよう! 妹ちゃん!!」
フナちゃんが掴んでいた手を振り払って、妹の方に駆け寄ろうとする。
「待って!」
フナちゃんについていくように駆け出す。
妹も心配だが、人の波に無謀に突っ込んでく友達も輪をかけて、心配してしまう。
人の波はまるで阿鼻叫喚の渦で、訳のわからない恐怖心を言葉にならない叫びを口から吐き出しながら、我先にと走り出している。
空の黒さは、ただの黒い空間ではなかった。
水面が広がるように辺り一面に広がっていき、高くそびえ立った建物を蝕むように飲み込んでいき、その場を無にして行く。
世界が終わる?!
訳のわからない恐怖と絶望が、急速に溢れだし、友達と妹を探し出せないまま、沈黙してしまった黒い世界に取り残された。
意識さえも黒く染められ、なにもわからなくなってしまった。