ハジマリ
見上げると、頭上高く青く透明な星が輝いていた。
ゆっくりとやって来る痛みと戦いながら、ぼんやりとみつめる。
冷たい風が肌を撫でる。どうやら、自分は外で倒れている様だ。でも何故、倒れているのだろうか。
鈍痛で閉じそうになる瞼をなんとか上げて、周りを見やる。
辺り一面、大量の瓦礫が散乱しており、沢山の人がまるで人形の様に倒れているのが見えた。
確か先程までは、ショッピングセンター内を友人と妹と歩いていたはずだ。なのに、この状況は一体何なのだろう。
「ふたりとも、無事なのかな?」
頭に浮かぶ最悪の事態に身を震わせながら、友人と妹を探そうと起き上がろうとすると
『動いてはいけない』
何者かが、起き上がろうとした身体を制する様に肩に手を当てて来た。
『君はひどい怪我を負っている。今動けば、もっとひどい事になるのだぞ?』
え? 日本語じゃない。
起き上がろうとした身体はそのまま動かなくなり、目の前の人物を凝視する。
軍服らしきものを着、人にはあり得ない肌の色の大柄な壮年男性が自分を止めていたのだ。
動くのを止めたのを見て、男性はホッとした表情を一瞬し、すぐに生真面目な表情を見せ『静かにしていなさい。君を医療スタッフの元へ連れて行くから』
「…え、あの…どうなって…」
混乱しそうになる頭を振りきりながら、目の前の壮年男性に問いかけようとする。
『? 混乱してるようだな。』男性は心配そうに呟くと無線機らしきものに話しかけた。『こちらにドクターを寄越してくれ。』
多勢の人が右往左往している中から、ひとりの小柄な男性が小走りで走ってくるのを見て命令するように言う。
『少尉の意識が混濁しているようだ。ここで診断してくれ。』
小柄な男性が言われた通りに手を伸ばしてきたが、その手を払いのける。
「触ら…ないで! 友達と妹を…捜すんだから…」
『大佐…少尉のご様子……』
払い除けられた手がよほど痛かったのか、小柄な男性は手を擦り、驚愕した様な表情になる。
『混濁という感じではありませんぞ』
目の前の男性達は、此方が知っている単語を一向に口に出す事はなく、彼ら共通の単語で話しているようだ。
ふたりで顔を見合わせて、時折心配そうにこちらを見やる。
一体、彼らは何者なのだろうか?
誰だろうと、ゆっくり考え込む暇はなかった。そういう思考は、妹達を探し出した後にゆっくりと考えれば良い。
何とかもがきながらも、中腰になりいざ立ち上がろうと動くと、首筋に軽く痛みが走り、身体の力が勝手に抜けていくのを感じた。
地面が目の前に迫ってきた。
倒れたんだ。
起きなければと、足掻くも身体はびくともせず、それでもなんとか原因を探そうと首を巡らすと、先程の小柄な男性が注射器に似たような物を握っているのが見えた。
薬? そう思ったのもつかの間、視界は闇で覆われていき意識が下降していった。