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【天の渚と渡れぬ三途の狭間で】どうして!? 他の死者は行けるのに雫だけが川を渡れない。天国の入り口で彷徨う少女の物語。  作者: 天猫  咲良


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24話「巡る輪のたもとで出会う」

 雫は悠斗に声をかけずそっと先に進んだ。きっと悠斗は泣いている姿を人に見られたくはないだろう。


 川は相変わらず小さな雫の姿を見せながら流れていく。


 今では何の苦労もせずに出来ることが赤ちゃんの自分にはとても大変なことだったんだと、奮闘する自分の姿を見て思う。


 簡単に思える寝返りでさえ何度も繰り返し練習して出来るようになり、はいはいすら上手く出来ないで手足をじたばたさせている。立つとなると更に困難を極めた。


「頑張れ雫! 諦めるな!」


 自分の姿に自分で応援の声を上げるという妙な形となったが、ついつい声をかけずにいられなかった。


 つかまり立ちして手を離しふらついて転がる。ぺたんと座り込むこともあればゴロンと転がって頭を打ち大泣きをする事もあった。


「あぁ・・・痛いよねぇ、痛いいたい」


 自分の姿に声をかける。


 それでも、赤ちゃん雫はまた近くの物につかまって立ち上がる。何度も何度も繰り返えし諦めることすら知らないように、成功しか考えていないみたいにただ繰り返しチャレンジしている。


「私・・・赤ちゃんの時にはこんなに一生懸命出来たのに、何であの時頑張れなかったのかなぁ」


 赤ちゃんの雫の健闘に大きな雫は少しへこんだ。


「雫!」


 ふいに声をかけられて顔を上げる。


「お・・・お父さん・・・」


 川の対岸がもう目の前に迫っていた。そして、川辺に笑顔の父親の姿が見えて、父の顔を見た瞬間に雫は自然と走り出していた。


「お父さぁーん!」


 小さい子がするように飛びついて力一杯抱きついて父の感触を確かめる。


「本当にお父さん?」


 光を帯びたその姿が不思議で確かめる。


「ああ」

「本当に?」

「父さんの顔忘れたのか?」


 雫は強く顔を振ってみせる。


「雫ちゃん」

「ママ!」


 忘れかけた母の声に驚き喜ぶ雫。母の姿は若いままだった。父親の側に寄り添うように立つ彼女の姿も優しく光を放ち、雫は夢心地で母を見つめた。


「ママ?」

「こんなに大きくなって・・・」


 頬を撫でる母の優しい笑顔が涙に変わる、それは切なさ。

 雫と同じように会いたいと思ってきただろう母親の喜びに、予定より早く出会えてしまった複雑さが混じっていた。


「貴方の長い人生の土産話が聞きたかったわ」

「ママ・・・」

「ここに来るにはちょっと早過ぎよ」


 涙をこぼしながらそれでも笑顔を見せる母の後ろから声がした。


「貴方の子供になる約束だったのにね」


 母越しに後ろを見やると同年代の見知らぬ女の子が雫に笑顔を向けていた。


(誰だろう? 約束?)


「生まれるときには忘れる約束だから仕方ないわよ、お祖母ちゃん」


(お祖母ちゃん??)


 母に軽く肩を叩かれてお祖母ちゃんと呼ばれた少女が笑っている。きょとんとしている雫を母から剥がして彼女が雫を抱きしめた。


「お帰り。私が子供になる約束したらあの世界に残る座標になれるかと思ったけど、上手く行かなかったの残念だな」


 そう言って雫に笑顔を向けた。


「お、お祖母・・・ちゃん?」

「雫のお母さんのお祖母ちゃん。私、貴方のひいお祖母ちゃんよ」


 雫は彼女の頭から足先まで見ながら混乱していた。


(凄く若いんだけど、これも思いの力のせい? それとも早く死んじゃったのかな? 昔と言ってもこの年齢で子供生む時代じゃないような・・・)


 色々考えて真顔の雫を見て彼女が腹を抱えて笑う。


「ここではね、自分が好きな年齢の姿でいられるのよ。生きた年齢より上にはなれないけどね」


 ぱんぱんと雫の背を叩いて笑っている。箸が転んでも笑うと言う言葉があるけれど、姿が若いと年齢が上でも適用されるのだろうかと疑問が浮かんだ。


「雫! しずく!」


 聞き覚えのある声が遠くから近づいてきて、雫は声の方へ頭を巡らせた。


「奏汰君!」

「やあ! 案外早く来たな。もっと手間取るかと思ってたよ」


 そう言って片手を上げる奏汰に雫はハイタッチして、ふたりで笑った。


「うちの雫がお世話になってぇ」


 少し腰をくねらせて上目遣いにひいお祖母ちゃんが礼を言う。彼女の笑顔に奏汰の表情が緩むのが分かった。


「い、いえ。世話だなんて、僕もお世話になりましたぁ」


(僕だって・・・)


 雫は呆れて奏汰を横目で睨んだ。そんな雫に若い姿のひいお祖母ちゃんが耳打ちする。


「私この人知ってる」

「天国に来てからも見守っててくれたの?」

「そうじゃなくてね」


 声をひそめて返す雫にひいお祖母ちゃんが言葉を続ける。


「私の連れ合いだったのよ」

「つれあい?」

「貴方のひいお祖父さん」


「ひいお祖父・・・・・・えっ!?」


 仰天する雫を奏汰が不思議な顔で見ていた。


「どうしたの?」

「何でもない、またね」


 ひいお祖母ちゃんは軽く奏汰をあしらって雫の手を引き、奏汰に背を向けてくすくすと笑う。


「私より先に生まれ直したのにもう帰ってくるなんて、きっと無鉄砲なことでもしたんでしょ」

「さ、流石・・・よくご存知で」


 目を丸くする雫を見て彼女はまた楽しそうに笑った。


「無鉄砲で楽天家で、自分のことより他人の為に考え無しに動いちゃうの。1度生まれ直す位じゃ直せないのね」


 そう言って笑う。


(奏汰君がひいお祖父ちゃん・・・)


 振り返り奏汰の顔を見ながら雫はふとある言葉が浮かんだ。


 袖振り合うも多生の縁。


(偶然知り合ったと思った奏汰が、私のひいお祖父さん)


 もしかしたら、雫が生きてきて出会った人も別の時代に出会っていた縁のある人なのかもしれないと思った。


 駅員やバスの運転手、商店街のおじさんやおばさん、よく行ったハンバーガー店の店員。もしかしたら、名前も知らず話したこともない通学時によく見かける人も。別の時代に同じように見知った他人として毎日のようにすれ違っていた人かもしれない。


 そして思い出す。


 優しくしてくれた香織さん、おぶって渡ろうとしてくれた相沢さんや自殺した学生。そして、川の出現を知らせてくれた男の子。


(みんな・・・ここだけの知り合いじゃないのかもしれない)


 また生まれ変わった時に、次の時代で会えるなら。


(会いたいな、会えるといいな)


 どんな縁で出会うのか、その出会いが一時いっときか親友のように長い時間かは決めて生まれることが出来るのだろうか・・・と頭の隅で思う。


 振り返るとそこに川はまだ流れていた。

 夜空の星を映し込んでヒラヒラと面を変えながら、ゆっくりと川は流れていく。その先に小さく悠斗の姿が見え隠れしていた。


 誰もがここに帰ってくる。そしてまた生まれるのだろう。


「輪廻転生って・・・いつまでも続けられるのかな」


 雫は誰にともなくぽつりとそう言った。


「続けたいの? 簡単にはこの輪から卒業できないから、その心配はいらないと思うわよ」


 ひいお祖母ちゃんが軽くそう言った。

 雫は母とひいお祖母ちゃんに挟まれて、3人で並んで川に目を向ける。


「でも私・・・」

「あれは卒業とはいえないの」

「そう、あれはちょっとした現実逃避」


 雫の言いたいことを先回りして、母とひいお祖母ちゃんがふたりして雫に首を振る。


「逃げて足踏みしてたら、いつまで経っても変わらない」

「輪廻転生から卒業できるのは、神様くらい心の均衡の保たれた出来た人間だけよ」


 雫がまじまじとひいお祖母ちゃんの顔を見つめる。


「それって・・・とても難しそう」


 雫の言葉に周りの皆が同時に吹き出した。


「そうよ、とても難しいの。だから何度も生まれ直して自分の駄目な所を再確認して、何度も何度も修正をするのよ」


 皆で笑いあって顔を見合わせる。


「雫ちゃん」


 母の優しく暖かい声が雫を包む。


「自分を駄目だって責めなくていいのよ、人間は駄目な所があるものなの」

「駄目な部分があるからこそ人間なのよ」


 ひいお祖母ちゃんも笑顔を向ける。


「何度でも生まれ直して、自分の欠点に向かい合えばいいの」

「生まれ直さなきゃ出来ないの?」


 雫の言葉に肩をすくめてひいお祖母ちゃんが困った顔をする。


「天国は居心地がいいから良い人でいられる。でも、生まれた世界は地獄が少し混ざってるから自分の悪い所に気付けるのよ」


 なるほどと頷く雫の頭に大きな手が乗っかる。父の手だった。


「何度でも生まれ変われるからと言って、気軽に人生リセットはするな」


 見透かすような父の言葉に雫が苦笑いする。


「しませんよ。・・・ってか、そもそも自殺じゃないし」


 ぶつくさと言い始める雫に「分かった分かった」と父が逃げる。そんな2人を母が嬉しそうに微笑みながら見つめていた。




 海と川を挟んで輪廻の輪は巡る。


 今日の敵は明日の友と言う言葉があるように、今の出会いは前世の・・・または次の世の出会いに繋がっていく。すれ違い目があっただけの誰かさえ、次の世では深い付き合いをする相手かもしれない。そんなことを雫は思う。


 何度でも生まれ変わって、そして寝返りから始まりはいはいを経てつかまり立ちして立つことを覚える。誰もが皆、根気強くそうやって育って日々色々なことに悩みながら生きていく。


(また、次の世で会いたい。今度は小学校入学から一緒でも楽しいかもしれない)


 奏汰と悠斗の顔が浮かぶ。


(次はどんな出会いになるのかな、ただすれ違うだけの縁だったりすことも・・・あるのかな?)


 ここに来て出会った彼等はもちろんの事、自分が育った世界で出会った人や見知った人の顔を一人一人思い返しながら雫は強く願う。


(また会えますように)



 雫は知らないことだけど、出会うのは縁がある人ばかりではない。新しく結んだ縁も雫の輪廻の輪に寄り合わされて次の世で会うことがあるだろう。



 重なり合う縁、ふれ合う縁。


 幾度も、幾度でも。




 天の渚に生まれ川に清められ輪を巡り、そして、空駆ける流れ星となって人の世に生まれる。


 貴方が今すれ違った名も知れぬ人はいつの世の知り合いだろう。



 次の世で深い付き合いをする人だろうか・・・。






■■ 終わり ■■




最後までお付き合いくださり有り難うございます。m(_ _)m


雫もやっと川を渡りきりました。

この物語を読んで「あんな嫌みな奴と前から縁があったんて思いたくない」とムカつく方もいらっしゃるかもしれませんね。すみません。


輪廻の輪を結び直した雫が次の世でこうなるといいな・・・と思っての落ちであります。お許しください。


次回作も引き続き読んでもらえると嬉しいです。

ではまた(^^)ノシ




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