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第イ話:誘拐された者  作者: 吉野貴博
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上中下の中


 かなり変な状況だったらしい。三つも隣の県で、A子を背負ったKが山里にある住宅地を歩いていて、怪しんだ住人が警察に通報し、やってきたパトカーに保護を求めたのだという。

 二人は病院で病人が着るような薄い服を着ており、裸足だったそうだ。

 A子は警察署に着いてもショック状態で何も話せず、Kは名前や住所や大学や誘拐されたことを警官に話すのだが、やはりショック状態だったのだろう、かなりテンションが高く、目がギラギラして、安心しながらも震えながら大声で話していたそうだ。

 そこの警察官たちもKから言われた建物に向かったが、もぬけの殻で、残された書類や痕跡物から何か相当な混乱があったことが解るのだが、まだ連中の逮捕には至っていないようだなど続報が入る。

 二人はこちらに帰され、そのまま病院に送られ静養となる。A子は両親が来ているので無事を祝われての入院だが、Kは両親とも来ないので普通に看護師さんに様子を見られる、

 A子は心を閉ざして全く喋らなくなっており、警察も大学もKから事情を聞く、

 大学は大学で学生の安全のためセキュリティを強化する、

 ここまでは俺たちも説明を受けたのだが、話はそこで終わってしまった。

「学生と大学との信頼関係のために話せるのはここまでだ、あとは二人の心情を考えると、我々の口からは何も言えないんだよ」

 Bは当然怒り、解った範囲内での真相の説明を求めたが、厳密に言えばA子とBは結婚しているわけではなく、戸籍上は他人なので、警察も大学も守秘義務が発生してしまうのである。

 そしてA子は両親に連れられて郷里に帰ってしまうし、A子の両親もBに説明する気はない、ならばKしか話をしてもらう相手はいないのだが、退院したKは、もともとがゼミや他の講義で必要なことしかみんなと話そうとしない「人嫌い」である。Bがいくら執拗に真相を尋ねようが顔を背けて避けるし、とうとう怒鳴って殴り合いの喧嘩になりそうになった。さすがにそれはみんなが止めたが、それだけKは頑なに誰とも何も話そうとはしなかった。


 ところが、大学にいる学生はゼミ生だけではない。他にも大勢の学生がいて、それなりの数の学生が開かされない真相に興味を持っているのだ。

 新聞部とかマスコミ・メディア関連の学部、推理小説同好会や心霊現象サークルといった看板を背負っている学生や、ただの野次馬もいたが、Kはどれにも話そうとしない。

 そこで立ち上がったのが、リア充グループである。

 リア充グループは好奇心もあったのだが、普段から大学の自治に貢献している自負も持っている。面倒事や揉め事が発生すると、難易度や物理的距離の制約はあるのだが、力になれることは力になろうという行動していたのである。偽善か本心かはともかく。

 リア充グループが有象無象の知りたがり連中に、いつKに接触するかを告知する。

 野次馬たちに注目されながら、リア充グループが下手に出てKに話を持ちかける。

 二人のイケメンを従えたミスキャンパスが下手に出て陰キャにお願いするのである。Kにも都合があるだろうから日数はかかかるだろうが、プライドに賭けて真相を聞き出してみせる…という目算だったろうが、そのまま四人は使っていない教室に入っていった。

 さすがのKも、ミスキャンパスの美貌には鼻の下を伸ばすか、と遠巻きに見ていた全員が思った。

 五分経ち、十分経ち、Kが教室から出てきた。

 大勢の注目に気がついているのかいないのか、傍からは全く解らず、どことなくテンションを高くした状態で去って行った。

 みんな教室に殺到する。中では三人が呆然としていた。

 同席しなかったリア充たちに促されて、ミスキャンパスも

「うん…うん…」と口が重い。

 しかしミスキャンパスが自信満々で「私にならできる!」という態度だったのだ、真相を聞き出せたのなら言ってくれないと、みなが収まりがつかない。同席したイケメン二人もミスキャンパスが話さないうちは、勝手に喋るわけにもいかないので、困った目でミスキャンパスを見ている。が二人とも促すことはしない。二人もかなり当惑しているようなのだ。

 ミスキャンパスはこめかみに手をやり、目を瞑り、

「ちょっと待って、まとめさせて」と考え、ようやく話し始めた。

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