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第イ話:誘拐された者  作者: 吉野貴博
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上中下の上

 大学生の話だ。

 ゼミの女の子A子が、

「なんだか見られているような気がする」と言い出したことから始まった。

 A子の恋人であるBはすぐさま行動し、A子の送り迎えはもちろんA子宅の周辺パトロールも始めたのだが、怪しい奴は一向に見つからない。それでもA子が安心するのならと毎日護衛を続けるのだが、それでもA子の不安は収まらず、通学路を歩いていてビクビクしている。A子もBも不意に後ろを見たりするのだが、怪しい人物は全く見つからない。

 そこでBはゼミの仲間に協力を求め、怪しい奴がいないか見てくれと言い出した。

「プロの尾行だったら素人には難しいから」。

 みんなヒマなので協力し、護衛が増えたことを気づかれないように複数でA子の広範囲に位置し、携帯電話を駆使してフォーメーションを組んだ。怪しい奴を見つけてもその場で声をかけたら何のかんの言って逃げられる可能性が高いので、とにかくみんなで証拠を集めよう、もしA子に実力行使をする者が出たら、Bと通行人ふりをした一人が止めようと作戦を立てた。

 すると案外すぐ怪しい奴が見つかった。

 一人ではなかった。複数人いて、交代にA子を尾行していたのだ。

 しばらくは誰も気がつかなかったが、向こうも大勢で手慣れていたが、A子やBが不意の行動を起こしたときの反応までは決めていなかったようで、遠目から見るといくつかの型に嵌まった行動を取ってしまうのだ。だいたい急に立ち止まってその場で出来ることを始める、素知らぬふりで二人を追い抜く、隠れるの三パターンで、追い抜く者も三日するとまた尾行しているのだ。

 みんなそれぞれの場所から連中の写真を撮り、いよいよ明日一人を捕まえてA子を狙っている理由を聞こう、と決めたのだが、そこで連中の姿が消えた。

 ひょっとしてこちらが大勢で護衛をしていたのがバレたのか。そうかもしれないが、それでも根本は、A子へのつきまといがなくなれば構わないのだし、今の段階では警察に言っても相手にしてくれないだろうしと、しばらくはA子の護衛は続けて連中の出方を待つことになった。

 しかし甘かった。

 ゼミの教授がA子とKに講義で使う機材を持ってくるよう言いつけ、二人が取りに行って、帰ってこない。ゼミの誰もが気がつかなかったら、守衛が駆け込んできた。

「監視カメラに二人が誘拐されるのが映った!」

 Bが真っ先に教室を飛び出し、単に何も考えられなくなったのだろう、正面玄関に向かった。

 教授と俺たちは守衛室に行った。着くまで、ひょっとしてKが誘拐を手引きしたのかという思いが頭をかすめた。Kは人付き合いが悪く、A子の護衛に参加していなかったのだ。

 しかし守衛室に着いてみんなで映像を見ると、A子は怖くて身が竦んでしまっているのだろう、頭から袋をかぶせられて大人しく歩いているが、Kの方は引き摺られながらもかなり暴れている。Kの担当数人は手こずりながらもなんとか連れて行く努力をしている。

 音声は入っていないのだが、大声は出せないようにされているのだろうか。

 みんな画面の左から右へ通り過ぎ誘拐の映像は終わっているのだが、構内だ。守衛もすぐ全出入り口の詰所に連絡をしたのだが、強行突破された報告が来たのだという。

 真っ昼間大学構内での誘拐事件である。大学当局もすぐに警察に連絡し、必ず犯人を捕まえてやる、と息巻いた。

 私たち学生はとりあえずゼミの教室に戻され、Bも戻ってきて、これからどうするか話し合ったところに教授が戻ってきた。

「君たち、今日は帰りなさい、あとは我々大人に任せなさい」と臨時休講を告げた。

 みんなも教授に、今まで採っていた証拠を警察に渡すことを言って、その日は帰った。

 A子の親が大学に来たようだが、Kの両親は外国にいて大学には来られないとか、警察から事情を聞かれたりして時間が経ち、話をいろいろ総合したところ、ここまで強行する誘拐団は、すぐには捕まらないんじゃないかと思えてくる。人数が多いし計画的だしで、捕まるのなら交通のNシステムなんかですぐ捕まるだろうけど、すぐでなければ長期戦になるだろうな、というところに意見は落ち着いた。


 と思っていたら、二日後にA子とKが保護されたと連絡が来た。

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