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自分で考えろ(1段階 技能教習6)

 さあ、今日も車に乗るぞ!

 2017年9月21日。この日は珍しくやる気に満ちていた。なぜかというと、前日に疎遠になっていた友達(1話、2話に記載した僕が尊敬する人と同じ人)からメールが届いたからだ。

 その人からのメールを見た時、初めは驚いた。自分を軽蔑して離れていったのだと思っていたから。でも、理由は別にあったようだ。

 貰ったメールの内容に一部違和感を覚えたところもあったが、もう二度と話ができないと諦めていたので、また話ができると分かると嬉しくて涙が出た。

 勢いに乗った僕はこの日も2枠分の予約をしていた。いつもなら、普段かけていない眼鏡が原因で目が疲れるので、2日連続で予約を入れるのは避けていたのだが、高揚する気持が僕を駆り立てた。

 早く免許を取って、そのことを友達に伝えたい。その一心で大嫌いな車の勉強をし、ばっちり予習を済ませて臨んだ6回目の技能教習。練習するのは狭路の走行。

 教習開始前に『車道に出るな』と教官に言われ、のっけからむっとする(全く出てないし、路側帯から離れているのに言われた)。『この人大丈夫なのか?』という嫌な予感は的中。教習中はほとんど何も教えてくれない。『自分で考えろ』の一点張り。なんだかなぁとは思いながらも、頑張らなければという勢いに任せて狭路を走行する。

 狭路走行は坂道発進と並んで難しいと聞いていた。それでも坂道発進が問題なくできたので、今回もあっさり突破できると思っていた。しかし、そうそう何度もうまくはいかない。直角狭路は曲がるタイミングが合わず、前方のポールにぶつかりそうになり、S字狭路では内輪差で後輪が縁石に乗り上げてしまう。

 教官はなーんも教えてくれないので、自分でミスを修正していくしかない。失敗しても文句もないので、ぐだぐだ言われずに済み、それはそれで気は楽なのだが。

 それから何度も失敗を繰り返しながらも、確実に車両感覚を掴んでいき、教習時間の後半にはミスはなくなっていた。

 教習終了後、教官に『教えたことはできてるから自信を持て』と言われる。同じことを前回別の教官も言っていた。『◯◯さんは自己評価が低すぎる』と。そのことは自分でもよく解っている。

 僕は子どもの頃から常にと言っていいくらい周りに嫌われていると思っている。だからといって、友達がいなかった訳ではない。時には自分を好きだと言ってくれる異性もいた。そういった人たちから離れて初めて人伝てに知る。自分が本当に良く思われていたことを。それでも気持が満たされないのは、自信を持てないのは僕の兄の所為だ。少なくとも僕はそう確信している。

 あいつは僕が幼い頃から僕を否定していた。

 お前は馬鹿だお前には何もできることなんてない父さんも母さんもお前を邪魔だと思ってる何もできない屑遊ぶなと言った筈だただただそこでじっと止まってろお前が飯食えると思ったら大間違い生意気な奴目障り奴隷の分際で早く死ね。

 僕が二十歳になるまで続いたのは言葉の暴力だけではなく、肉体的にも精神的にも暴力を振るわれていた。時には包丁片手に追い回されたこともあったし、手の指を切断されかけたこともあった。それでも親の前や外面だけは良くて、周りからの信頼は厚かった。

 あいつの本性も知らずに親しくしている奴等が親も含めて僕には滑稽に思えた。僕が人嫌いになった理由の大部分はそこにあると思う。もしかしたら自分が良く思っている人も家の中では家族に暴力を振るってるのかもしれない。そう考えると誰とも仲良くなろうと思えなくなった。

 そんな僕の唯一の癒しが近所の野良猫だった。少なくとも猫の世界には嘘偽りなどなかったから。でも、その唯一の支えが車に奪われた。

 1段階の技能教習が半分ほど終わっても、車に対するイメージが変わることはなかった。依然として手は震えるし、運転するのは憂鬱だ。それでも免許を取ると決めた以上逃げる気はなかった。

 休憩中、教本の狭路走行の部分を読みつつ、やり直しと切り返しの手順を反芻する。

 気持で負けていては勿体ない。不安に押し潰されないようにしなければ。

 自身を鼓舞して臨む7回目の技能教習。ここで最悪の教官にぶち当たる。

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